研究実績の概要 |
今日我々が手にしている隕石のほとんどは過去に天体衝突の痕跡である衝撃変成組織を有している. 隕石は複数の鉱物から構成されており, 複数鉱物に残された同一の天体衝突を紐解くことで, 初期太陽系の衝突環境についての情報を引き出すことができる. 隕石などの宇宙物質は異なる密度, サイズを持つ鉱物粒子から成り, 鉱物粒子の間には空隙が存在する. このような複雑系に衝撃波が作用した際に何が起こるか?を実証することが当初の目的であった. 我々は宇宙科学研究所に設置されている縦型二段式水素ガス衝撃銃を用いて粉体への衝突実験を実施した. 適切な条件を満たすと衝突爆心点の極近傍に存在していた粒子群を「凍結」し回収できることを確かめた. この回収組織は衝突直下点に存在していることから, 既知の強度の衝撃波が作用した際に空隙を含む粉体がどのような応答を示すのか実証することができる唯一無二の実験試料であるといえる. 回収した試料を偏光顕微鏡で観察したところ, 飛翔体半径程度の空間尺度で衝撃変成度が変化していることが確認された. さらに消磁した磁性鉱物を混合させた粉体試料について, 制御した人工磁場をかけた同様の衝撃回収実験も実施した. 超伝導量子干渉磁束計(SQUID)で計測し, 試料が残留磁化を獲得していること, そしてやはり飛翔体半径程度でその値が変化することを確かめた. 段階熱消磁計測を行えば, 試料が経験した温度を原理的には復元できる. 今後は試料内部に磁性鉱物を含む試料(入手済み)を用いて同様の計測を行い, 鉱物自体が経験した温度を復元するとともに透過型電子顕微鏡による局所分析により, 鉱物粒子内部の歪構造の観察も実施予定である. 3年間の研究期間で当初の目的を達成するための方法論は確立することができた. 今後は実際に複雑系物質中の衝撃波伝播過程を明らかにしていく.
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