研究実績の概要 |
研究開始時までに得られていた複数の元素を用いた大腸菌の長期培養群について、それぞれから、特徴的な表現型を示す株の単離を試みた。添加した元素は、Li, W, Ru, Eu, Ndなどで、いずれも大腸菌での生理活性は報告例がないものである。これら、添加した元素を直接利用している大腸菌がいるのではないかと考え、主に金属添加、未添加の状態で培養を行い、添加元素を要求する株のスクリーニングを実施した。しかし、現段階ではそれぞれの添加元素を要求するような表現型の獲得には至っていない。そこで、複数の培養集団のゲノム解析を行ったところ、ランタノイドについては、細胞膜分子の合成関連遺伝子に複数の変異が認められた。細胞膜はMgやCaなどが細胞膜の安定性に寄与していることが知られており、特にCaはランタノイドとの置換が度々報告されていることから、ランタノイドが細胞膜安定性に寄与している可能性があると推定された。実際に、ランタノイド添加条件で長期培養を行った集団に、細胞膜の安定性を観察できる抗生物質や溶菌酵素を用いた試験を実施したところ、ランタノイドの存在下で安定性が向上していることがわかった。通常の大腸菌ではこのような性質は認められていないことから、ランタノイドが直接膜安定性に寄与している可能性が認められた。したがって、要求性とまではいかないまでも、積極的に添加元素を利用している株が誕生している可能性について手がかりを得ることができた。そこで、現在は、集団からこの特徴を有する株を単離することを目的としてスクリーニング系の構築を検討している。また、他の元素についても利用能が生じている可能性が残されていることから、ゲノム解析手法と組み合わせた添加元素利用株の探索も並行して進めていく。
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