研究課題/領域番号 |
21K18665
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三浦 英生 東北大学, 工学研究科, 教授 (90361112)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | ひずみ / グラフェン / 分子吸着 / バイオセンサ / 界面制御 |
研究実績の概要 |
第一原理解析を応用しグラフェンの電子物性の歪み依存性を定量的に解析する手法を確立した.本手法を活用し,グラフェン表面へのガス分子の吸着脱離に伴いグラフェン内の炭素原子間結合に歪みが生じ,やはりグラフェンの電気伝導特性に変化が生じることを実証した.グラフェン表面へのガス分子吸着により生じる歪み場と逆符号の歪みを外力として作用させると,吸着エネルギーが負から正に反転し,脱離が開始する現象を確認実証した.本知見に基づき,同様な現象が生じることを様々なガス分子の吸着脱離特性の歪み依存性として実証した.加えて,グラフェンの電気伝導特性が,下地となる基板材質に強く依存して,電子伝導型から正孔伝導型に変化することを世界で初めて定量的に明らかにした.これにより,下地基板材質を最適化することで,様々なガス選択性と感度向上を実現できる見通しが得られた. また,異なるバンドギャップを有する複数のグラフェンナノリボンからなる単純電界効果型トランジスタ構造を試作することに成功した.試作したグラフェンナノリボンは第一原理解析で予測した通り半導体的な性質を示すことを確認実証した.また,基板材質に依存して電気伝導特性が変更することも実験的に実証した.これらのグラフェンナノリボンの電気抵抗率は高感度のひずみ依存性を示し,得られたひずみ感度は1500と従来のシリコン材料の10倍以上の感度を有することも実証した.さらに,グラフェン表面に特定の分子を吸着させる機能性分子としてCNTを堆積させるプロセスを新たに開発し,ガス分子検出感度を向上できることを実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り,第一原理解析を応用したグラフェンのガス分子吸着性能を律速する構造因子として,基板材質と歪の影響を定量的に明らかにすることに成功した.特に基板材質に依存してその上に堆積したグラフェンの電気伝導特性が電子伝導型から正孔伝導型まで大きく変化することを明らかにできたことは,今後のセンサデバイス開発において重要な知見である.本研究成果については,国際学会( 3rd Global Summit on Physics 2021, Prague, Chez Republic)から基調講演(オンライン講演)として招聘されるとともに,日本機械学会から機械学会フェロー賞(若手優秀講演賞)も受賞しており,研究の独創性や工学的有用性は国内外から高く評価されている.また,グラフェン表面のガス分子吸着特性を向上させる触媒としてCNTを安定して成長させる薄膜プロセスも予定通り開発でき,次年度のデバイス試作と性能評価に向けて安定した研究基盤を構築することにも成功した.
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今後の研究の推進方策 |
当初目標である,グラフェンナノリボン表面の歪み状態を制御することで,特定の分子の吸着あるいは脱離特性を可逆的に変化させる技術を確立する.またグラフェンナノリボン表面に特定の分子吸着を制御する機能性分子と表面保護皮膜をコーティングし,気体あるいは液体中に存在する当該分子の選択的検出を可能とする基本技術も構築する.これにより,マルチ分子選択センサ開発に向けた歪み制御多機能バイオセンサ開発の基盤技術の構築を図る.
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