研究課題/領域番号 |
21K18666
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 秀治 東北大学, 工学研究科, 教授 (00312611)
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研究分担者 |
山田 駿介 東北大学, 工学研究科, 助教 (50811634)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | MEMS / 温度補償 / 周波数温度特性 / ドーピング |
研究実績の概要 |
本研究は、シリコンに複数種のドーピングを施し、それによって複合振動MEMS共振子の温度補正を行うことを目指す。まず、シリコンMEMS共振子の周波数温度特性をシミュレーションするため、複数の文献からドーピング毎の弾性率の温度依存性を拾い出してデータベースを作成し、それに基づいて複数種ドーピング構造の周波数温度特性を有限要素法シミュレーションする方法論を確立した。 研究対象として、第一に面内振動と面外振動を用いるロール・ピッチ振動ジャイロ構造を選択した。このようなMEMSでは、面内振動と面外振動の共振周波数を合わせるため、両者の周波数温度特性を調整しなくてはならない。しかし、一般的に両者は異なった特性を示し、また、ドーピングに対する振る舞いも異なる。そこで、場所毎に異なるドーピングを施すことで、両者の温度特性を独立に制御できることをシミュレーションによって確認した。 第二に、MEMSとして代表的で用途の広い片持ち梁形状の共振子を選び、その周波数温度特性を改善する研究を行った。片持ち梁MEMS共振子は、単純な構造では、ドーピングを調整するだけでは良い周波数温度特性を得ることができないため、複合振動を導入することを考えた。シミュレーションによる基礎検討の結果、Si (100)基板上の曲げ振動とねじり振動が、反対の1次周波数温度特性を示すことを見出し、この2つの振動を複合させることを試みた。シミュレーションによる設計最適化によって、片持ち梁の根本部分にねじり変形が起こる構造で、-40~85℃で共振周波数変化が200 ppm未満となる構造を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数種ドーピングを有するシリコンMEMS共振子の周波数温度特性をシミュレーションする方法論を確立し、様々なMEMS共振子の周波数温度特性を計算できるようになったことは重要な成果である。この成果に基づき、2種類のMEMS共振子の周波数温度特性を計算し、単一ドーピングでは所望の周波数温度特性が得られない場合でも、複数種ドーピングを行うことによって解決できることをシミュレーションによって実証した。このことは、本研究の元々のアイデアの有効性を確認した重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、MEMS共振子の周波数温度特性が複数種ドーピングによって改善できることを、有限要素シミュレーションで確認した。したがって、今後、これを実験によって確認する計画である。周波数温度特性の改善には高濃度ドーピングが必要であることがわかっているので、それをスピン・オン・ドーパントを用いて行う。スピン・オン・ドーパント条件とドーパント濃度・プロファイルとの関係を調べ、シミュレーションと組わせて、共振子と作製プロセスの設計を行う。実験用共振子は標準的なMEMSプロセスによって作製する。同時にMEMS共振子の温度特性を測定するセットアップを構築する。これは真空中でMEMS共振子の温度を制御・測定しながら、その共振周波数をロックイン測定するものである。 ここで研究している技術を用いれば、シリコンMEMS共振子の周波数温度特性を、シリコンのみではこれまでにできなかった水準に改善できる。従来、MEMS共振子の周波数温度特性を改善するには酸化シリコンを用いていたが、これが不要になる。私達は、別のプロジェクトで、水素アニールによるシリコンリフロー現象を用いた高真空・高安定MEMSウェハレベルパッケージング技術を開発しているが、シリコンのみの共振子であれば、この技術を適用可能である。高真空・高安定ウェハレベルパッケージングは、特にタイミング共振子に必要であり、これをシリコンのみによる温度補償技術と組み合わせると有効である。水素アニールの温度特性への影響は興味深い研究対象であり、両プロジェクトのシナジー効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はシミュレーションを中心とする研究を実施したため、次年度使用額が生じている。次年度は実験による実証を行う計画であり、これに予算を使用する。具体的には、部材、薬品、装置利用料、学会参加費などに予算を充てる。
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