初年度には本研究で構築したシリコン振動子の温度特性のシミュレーション環境を用いて、周波数温度特性が小さくなる片持ち梁振動子を設計した。片持ち梁振動子の共振周波数は32 kHzにしたが、これはクロック共振子への応用を想定したものである。この振動子は、1次の周波数温度特性の正負が異なるねじりと曲げが複合した振動子であり、この新規構造によって1次の周波数温度特性をキャンセルできる。この振動子を2つの異なる不純物濃度のシリコンで試作し、周波数温度特性を測定した。この測定のために、真空チャンバー、レーザードップラ振動計、温度制御ステージ、温度センサーから成るセットアップを構築した。測定結果とシミュレーション結果とを比較し、両者が良好に一致することを確認した。 選択ドーピングの方法としてスピンオンドーパントを利用する方法を開発した。不純物濃度分布は広がり抵抗測定法によって評価した。ドーピングはシリコンの表面近傍にのみなされるので、これを効果的に周波数温度補正に用いるため、in-plane MEMS共振子の深堀エッチング側面にドーピングする方法論を新たに提案した。 この方法論によるシリコン共振子を、前述のシミュレーション環境によって設計した。この際、単結晶シリコンウェーハ上に形成されたビームのin-plane曲げの周波数温度係数がビームの結晶学的方向によることを利用し、異なる方向の振動の周波数温度係数がキャンセルするような設計を行った。このような新しい複合振動によって、-40~80℃の周波数温度変化を200 ppm未満にすることができることを見出した。また、設計した共振子を試作し、周波数温度特性を評価した。
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