本研究の目的は,申請者らがこれまでに発見したフェムト秒レーザパルス照射により透明なCu2O球状ナノ粒子が単層でCu薄膜上へ局所接合される新規現象を応用し,Cu2O球状ナノ粒子の局所接合・還元を用いた3次元熱ダイオードを創製することにある.令和4年度は,令和3年度に合成時のサイズ制御を実現したCu2Oナノ粒子に還元剤を混合してインクを調製し,近赤外フェムト秒レーザパルス照射時のCu2Oナノ粒子の還元過渡現象を検討した.具体的には,ポンプ・プローブ法により透過率を計測して,反射率の時間変化を明らかにした.溶融描画条件では0 psから300 psまで反射率の変動はほとんどなく,その後600 psまで反射率の上昇が確認できた.反応完了後には反射率は減少した.反射率の上昇はCu2O球状ナノ粒子の還元,減少はCu2O球状ナノ粒子の溶融により生じていると考えると,400 psから600 ps にかけてCu2Oナノ粒子の還元がされ,600 ps以降にパターンの溶融がされたと推測される. 単層描画では0 psから400 psまで反射率の時間変化はなく,その後600 psにかけて減少した.更に,溶融描画時と異なり,600 psと反応完了後の反射率の変化は見られなかった.また,1回走査時と比較して2回走査時の反射率は低下し,一方,時間変化は同じ傾向を示した.このことから1回走査時の単層描画では400 psからCu2O球状ナノ粒子とCu薄膜接点の局所接合が開始されて反射率が低下して600 psには完了したと考えられる.その後の2回走査時には既に局所接合された分反射率が低下した状態から反応が開始され,改めて400 ps以降局所接合反応が誘起されたと考えられる.
|