研究課題/領域番号 |
21K18674
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平方 寛之 京都大学, 工学研究科, 教授 (40362454)
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研究分担者 |
嶋田 隆広 京都大学, 工学研究科, 教授 (20534259)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | ナノマイクロ材料力学 / 原子層材料 |
研究実績の概要 |
高強度の原子層材料をゆるやかな相互作用で積層させた多層原子層材料は、破壊することなく巨大な曲げ変形を許容し、大きなヒステリシスを伴いながらも、除荷により完全に形状が復元する。この特異な力学特性の詳細なメカニズムは未解明である。本研究では、多層原子層材料が大変形に対して「なぜ壊れないのか(不破壊性)」および「なぜ復元するのか(自己復元性)」を明らかにして、その背後にある普遍的な力学法則の解明を通じて、高強度であり破壊しにくい材料(イモータル材料)を実現する学術的基盤を確立することを目的とする。 本年度は、多層原子層材料に対する力学実験技術、とくに、集束イオンビーム(FIB)加工による微小試験片の作製、ハンドリングとチャッキング、および圧子を用いた各種強度実験方法を確立した。まず、典型的な多層原子層材料であるグラファイトを対象として、面外曲げ試験を実施するためのマイクロ片持ちはり曲げ試験方法を開発して、基本特性を得た。さらに、テーパー付き片持ちはり試験片を用いた層間はく離強度試験方法を開発した。本手法を多層二次元材料Bi2Te3に適用し、破壊力学に基づいて層間破壊じん性を評価できることを示した。 また、不破壊性の起源として、離散的な原子層材料の集合体では層間の応力伝達が小さく欠陥による応力集中を回避できることによるとの仮説を立て、これを検証するため、片持ちはり曲げ試験において面内き裂(切欠き)および面外き裂(切欠き)に対する強度特性を評価する方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度に計画していた、多層原子層材料に対する各種実験方法の開発はすでに終えており、令和4年度に計画していた基礎的な力学特性の取得にも一部着手している。多層原子層材料MoTe2を対象として、面外き裂および面内き裂に対する強度実験を実施して、面内き裂よりも面外き裂の破壊じん性が高く、原子層間の離散性に起因して応力拡大が低減する性質(不破壊性)が実在することを明らかにした。さらに、当初の計画を越えて、多層原子層材料の疲労やクリープ特性の評価実験方法の開発、および電気-機械応答の評価も開始しており、当初の計画以上に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に開発した実験方法により引き続き各種力学試験を行い、可逆的な巨大変形を生み出すメカニズムを解明するとともに、それに基づく力学モデルを構築する。現象を支配する寸法スケールに応じて、層状連続体の変形とそれらの間の相互作用を考慮した力学解析を行い、実験結果との対照から、多層原子層材料の変形の力学に関する理論的検討を行う。 これまでの研究により多層原子層材料には疲労やクリープが存在することを明らかにした。そこで、当初の計画を越えて、多層原子層材料の疲労特性およびクリープ特性の解明にも取り組む。さらに、多層原子層材料における電気-機械応答特性の評価実験を行い、マルチフィジックス特性の工学応用へ向けた基礎的な検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
現有装置を活用することで予備的な実験システムを構築して実験を実施したため、次年度使用額が生じた。次年度に本経費を使用して、疲労やクリープ試験に対応した力学試験システムを導入して実験方法をさらに高度化する計画である。
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