金属結合と共有結合という全く異なる結合状態を有し異なる変形能を有する金属ナノピラーとグラフェンシートを対象とし、これらに初期き裂を導入したモデルに対して、分子動力学法を適用し、繰り返し負荷下における欠陥の時間発展解析を実施した。このとき、繰り返し負荷振動数、温度、応力振幅を変化させた。この繰り返し負荷をナノピラー、グラフェンシートが完全に破断するまで継続して与え、疲労破壊(または大きく塑性変形する)までのプロセスと時間を求めた。結果、金属ナノピラーでは初期き裂からの転位生成、グラフェンシートでは初期き裂の進展が見られ、き裂発生までの時間はともに温度、応力振幅の上昇に伴って急速に短くなることが示され、結合様式に依らず疲労の素過程を熱活性過程として扱うことが妥当であることが示された。これによりこれまでに立てていた理論予測式の理論的背景の正しさが確認できた。しかし、破断(もしくは大きな塑性変形が生じる)までのプロセスが多段の熱活性化プロセスとなっているため、単一プロセスを仮定していた従来の理論式では、破談までの時間(寿命)を正確に予測できないことが判明した。この問題を解決するために、多段熱活性化プロセスを考慮した理論予測式を新たに構築した。構築した理論予測式を用いて予測したグラフェンシートの破断までの時間を、分子動力学法の解析結果と比較したところ良い一致を示した(論文執筆中)。ここで得られた繰り返し負荷時の塑性変形イベント活性化の知見を発展させて、振動をさせながらインプリントすることにより、これまで以上に微細なナノ造形が可能になることを示すことができた。なお協力研究者と実施したナノ疲労実験については、繰り返し負荷時の試験の安定性の確保が難しく、定常的な繰り返し負荷を与えることができなかったため、成功していない。今後の課題である。
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