研究課題/領域番号 |
21K18676
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有馬 健太 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10324807)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | ナノカーボン / 異方性エッチング / ウェットエッチング / 原子構造制御 / 触媒 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ナノカーボンが持つ触媒作用を利用して、次世代半導体表面に対する液相雰囲気下での新しいリソグラフィー法を打ち立てることである。 本年度は、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy)を用いて、ナノカーボンの電子状態を原子スケールで観測した。さらに、第一原理計算を用いてSTM画像を詳細に分析し、2つの線状欠陥が近接することにより、特異な電子状態が生成することを突き止めた。 さらに、ナノカーボン材料を半導体表面に単一レベルで散布し、酸素分子が溶存したエッチング液に浸漬することにより、ナノカーボン直下が選択的にエッチングされる様子を原子間力顕微鏡により観察すると共に、ナノカーボンの種類がエッチング特性に与える影響について調べた。このとき、酸素還元反応の酸化還元電位と半導体のエネルギーバンド図を考慮し、半導体にはゲルマニウムを選択した。次に、上記実験で用いた異なる種類のナノカーボン触媒をそれぞれ、グラッシーカーボン電極上に被覆形成し、サイクリックボルタンメトリーやリニアスイープボルタンメトリーといった電気化学測定を行った。そして、巨視的な電気化学測定の結果と、微視的なエッチング痕の観察結果を比較し、エッチング痕が形成されるメカニズムについて考察した。 上記の実験を通して、ナノカーボン直下の半導体表面でのエッチング速度を向上させる上で鍵となる実験パラメータを模索すると共に、リソグラフィー実験を実施する準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
次世代の電子光学デバイスの実現には、半導体の表面構造を超精密かつ自在に制御できる微細加工法の高度化が不可欠であり、”金属アシストエッチング”と呼ばれる、触媒作用を援用したウェットエッチングが注目されている。本研究では、触媒材料として貴金属に代替するナノカーボン材料の可能性に着目し、次世代半導体表面に適用できる新しいリソグラフィー法を打ち立てることを目指している。ここで、ナノカーボン材料とは、グラフェンネットワークを有する微小なシートであり、構造欠陥を導入することによって、触媒作用を発現する。しかし、ナノカーボンの原子構造や電子状態が、接触した半導体表面のエッチング現象を加速するメカニズムについては、未だによく分かっていない。 本研究では、プローブ顕微鏡技術と量子力学計算を組み合わせることにより、まず、ナノカーボンが持つ電子状態を理解することを試みた。加えて、半導体表面のエッチング特性に影響を与えるパラメータ(ナノカーボンの構造や欠陥、溶液種など)を明らかにして、高い加工速度を持つリソグラフィープロセスへと展開するための準備を整えた。 本年度は、上記の指針に従って研究を遂行し、(1)米国電気化学会が発刊する学術雑に原著論文が掲載される、(2)日本表面真空学会が発刊する会誌に研究紹介記事が掲載される、(3)表面科学に関する国際会議、及び、複数の学会が主催する年会(学術講演会)において口頭及びポスター発表を行う、などの多くの成果を得た。そのため、本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、ナノカーボン触媒膜の成型プロセスを開発する。具体的には、簡易なリソグラフィーを組み込んだプロセスを構築し、ナノカーボン触媒を”パーツ”とした触媒膜を半導体表面上に成型する。そして、ナノカーボンの局所的な修飾基(酸素官能基、ドーパント原子)が、触媒膜の均一性や膜厚に与える影響を明らかにする。次に、形成した試料をエッチング液に浸漬し、触媒膜を援用したトレンチ(溝)加工を行う。エッチング液には、酸化剤(溶存酸素、過酸化水素など)と酸化物を溶解する溶液(フッ化水素、純水など)の混合溶液を用いる。そして、トレンチ(溝)構造の断面を観察して加工条件を最適化し、深堀加工の可能性を検証する。 加えて、国内のスーパーコンピュータの共同利用を通して、これまでに実施してきた、第一原理に基づくナノカーボンの電子状態シミュレーションをさらに拡張する。そして、ナノカーボンに存在する”しわ”などの代表的な構造欠陥が電子状態(バンド構造、局所状態密度の分布 など)や触媒活性(酸素分子の吸着や解離特性)に与える影響を明らかにしていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始時は、物品費として800千円を計上していたが、試料(半導体基板、グラフェンインク)や薬品類を無駄遣いしないように心がけることにより、新規購入を次年度以降に持ち越すことができた。その結果、物品費が67千円程度に抑えられた。また昨今のコロナ禍により、学会等をオンラインにて参加したことにより、予定していた旅費(100千円)を節約するに至った。 今年度の残額(728千円)は、次年度予算(1500千円)と併せて利用し、実験環境の整備や共同利用施設の利用費、及び、対面形式が増えると予想される国内外の学会への旅費に充当したいと考えている。
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