外界を認識する上で視聴覚同様に重要な役割を果たしている触覚に関するハプティクス産業は2030年には400億ドル市場に成長するとも言われている.このため,触感の正確な計測は重要な課題のひとつであり,本研究は触感センサで計測した振動データから触感の違いを表す潜在的な特徴量を抽出し,ヒトが知覚する触感を精度よく計測する手法を確立することを目的としている. 一般的に,物体の触感を定量的に評価するためには被験者による官能評価実験が用いられているが,統計的評価には多くの被験者が必要であり,時間的,経済的コストが高い.このため,触感センシング技術が注目されている.このため,2021年度には歪みゲージを包含する硬さの異なる2層のシリコーンゴム層によって形成された触感センサを開発し,エンボス加工されたサンプルをなぞった際の振動情報を取得した.つぎに,ディープオートエンコーダを使用してセンサで取得した振動情報から特徴量を抽出した.並行して,官能評価実験によって被験者が同様のサンプルを触察した際の評価語に対するスコアを取得し,振動情報から抽出した特徴量と官能評価スコアを繋ぐ触感推定モデルを構築した.2022年度は特徴量抽出をさらに発展させ,ヒトの触察行動が速度が変化する往復運動であることを考慮して,触感センサによる触察の際にも往復運動を含めて速度が変化する測定条件での計測を行い,ウェーブレット変換を導入して時間空間および周波数空間を同時に扱った上で畳み込みニューラルネットワークによって特徴量ベクトルを抽出した.抽出した特徴量ベクトルを用いて,触感スコアを推定する回帰モデルを構築し,7段階SD法による官能評価による平均値と1点以内の誤差で触感スコアを予測できることを示した.これは官能評価実験の分解能以下の精度である.
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