電気自動車やスマートハウスの普及に伴い,リチウムイオン電池の高容量化が求められている.従来の炭素電極の代わりに高容量化の見込めるシリコン負極の研究が進められているが,シリコン薄膜負極は充電時に体積膨張が生じるため,充放電を繰り返すとシリコン膜が崩壊する問題がある.本研究では,半導体製造工程から大量に排出させるシリコンスラッジに適量な炭素粉末を混合させ,高出力レーザを照射することによりシリコンと炭素からなる複合ナノワイヤを生成させることにより高性能な負極を創製し,シリコン負極の諸問題を解決することを研究目的とする.本研究の目標を達成するために,レーザ照射による複合ナノワイヤ堆積装置を構築し,異なる重量比でシリコンスラッジと炭素粉末を混合させ,ターゲット試料を作成し,レーザ出力やパルス幅,パルス周波数,スキャン速度などを変化させて照射実験を行った.そして生成されたナノ構造体の堆積形態を観察し,その形状や断面構造,化学組成などを評価した.その結果,R3年度においてシリコンナノ粒子表面に多層グラフェンコーティングが形成された複合ナノ粒子の形成が確認された.また,高速度カメラによるプルーム観察を用いて,レーザ照射初期に生成されたシリコンナノ粒子が後期に残ったガス状炭素プルーム内を通過することで粒子表面が炭素層で覆われ,コアシェル構造が形成されたことを解明した.R4年度においては主にレーザデフォカスの影響について調査し,特定な範囲においてレーザデフォカスを増加させることによりナノ粒子からナノワイヤへ遷移する現象を発見し,多層グラフェンコーティングが形成されたシリコンナノワイヤが生成できることを確認した.さらに,生成されたコアシェルナノ粒子およびナノワイヤによって作成した負極は,充放電容量,サイクル特性,レート特性において高い性能を示し,次世代負極材料になり得る可能性を示した.
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