研究課題/領域番号 |
21K18682
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
徳増 崇 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (10312662)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | プロトン輸送 / 水素 / 分子動力学 / エネルギー障壁 |
研究実績の概要 |
今年度は、まず量子化学計算により、鉄原子内部の水素の最安定位置(サイト)や水素がサイト間を移動するときの移動経路やポテンシャル障壁のデータを取得した。量子化学計算には東北大学流体科学研究所のスーパーコンピュータに導入されているDMol3を用い、鉄原子をFCC構造状に64個並べ、その中の水素原子のエネルギー状態を取得した。次にこのデータを用いて水素原子―鉄原子間のポテンシャルモデルを構築した。ポテンシャルモデルには金属と原子の相互作用をよく表現できるEmbedded Atom Method (EAM)を用い、このポテンシャルパラメータは、得られた量子化学計算の結果を再現できるように決定した。その結果、このポテンシャルモデルは水素の解離経路のエネルギー状態をよく再現することができた。 次にこのポテンシャルモデルを用いて経路積分法により水素が安定サイト間を移動する際のポテンシャル障壁を計算した。水素原子は原子位置の不確定性により温度によりポテンシャル障壁が変化するため、様々な温度におけるポテンシャル障壁の参照データベースを作成し、その特性を数式化してポテンシャル障壁のモデル関数(ポテンシャル障壁モデル)を構築した。また、量子トンネル効果を考慮するため、水素原子を波束で表現し、その波束をあるポテンシャル障壁に入射させてその透過波・反射波を解析することにより、水素原子がポテンシャル障壁を越える確率を求めた。この計算を、水素原子の運動エネルギーやポテンシャル障壁の大きさを変化させて行うことにより、水素原子のポテンシャル障壁に対する透過率・反射率の参照データベースを作成し、その特性を数式化することにより、水素原子のポテンシャル障壁に対する透過率・反射率のモデル関数(水素透過・反射モデル)を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は新型コロナ感染症の影響で、国内外の出張に制限がかかったため、研究の遂行に必要な情報収集ができなかった。また、量子化学計算に予想以上の時間がかかってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は今年度構築されたポテンシャルモデルを動的モンテカルロ法に導入し、水素原子の量子効果を考慮し、かつ大規模系に適用可能な水素輸送シミュレータを構築する。このシミュレータでは3次元格子状に鉄原子を配置し、安定サイトにランダムに水素原子が配置されており、ある確率でポテンシャル障壁を越えて近傍の安定サイトに移動する。その確率は水素透過・反射モデルにより与え、系の圧力(格子定数)や温度がポテンシャル障壁に与える影響は、ポテンシャル障壁モデルにより考慮する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ感染症の影響で、国内外の出張が制限され、研究に必要な情報収集や学会参加が思うように進まなかった。この残額を翌年度分と併せて、国内外の出張や学会発表等を行い、研究を加速させる予定である。
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