本研究では、まず量子化学計算により、鉄原子内部の水素の最安定位置や水素がサイト間を移動するときの移動経路やポテンシャル障壁のデータを取得した。次にこのデータを用いて水素原子―鉄原子間のポテンシャルモデルを構築した。 次にこのポテンシャルモデルを用いて経路積分法により水素が安定サイト間を移動する際のポテンシャル障壁を計算した。水素原子は原子位置の不確定性により温度によりポテンシャル障壁が変化するため、様々な温度におけるポテンシャル障壁の参照データベースを作成し、その特性を数式化してポテンシャル障壁のモデル関数を構築した。また、量子トンネル効果を考慮するため、水素原子を波束で表現し、その波束をあるポテンシャル障壁に入射させてその透過波・反射波を解析することにより、水素原子がポテンシャル障壁を越える確率を求めた。この計算を、水素原子の運動エネルギーやポテンシャル障壁の大きさを変化させて行うことにより、水素原子のポテンシャル障壁に対する透過率・反射率の参照データベースを作成し、その特性を数式化することにより、水素原子のポテンシャル障壁に対する透過率・反射率のモデル関数を構築した。 上記により構築されたモデルを動的モンテカルロ法に組み込むことにより、水素原子の量子効果を考慮し、かつ大規模系に適用可能な水素輸送シミュレータを構築した。このシミュレータを用いて、実験結果が存在する温度・圧力条件において水素原子の拡散係数を求め、実験結果と比較することにより計算モデルの妥当性を検証した。その結果、比較的実験結果との良好な一致が見られた。これにより構築されたシミュレータを用いて水素の拡散現象を様々な温度、圧力条件下でシミュレートし、拡散係数の活性化エネルギーを評価した。
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