材料のマイクロメカニカル特性を評価する技術は,工学分野において極めて重要である.これまでの研究では,多くの研究者が原子間力顕微鏡(AFM)を利用してこれらの課題に取り組んできた.しかし,AFMの先端がナノスケールの長さであるため,スラリーやクリームなどの分散系に関するデータはほとんどない.これらの材料は,工業や工学の場面で不可欠であり,AFMと同様の方法で正確な評価が必要である.そこで我々は,超高精度で高感度な球状ナノインデンテーション(SNI)に着目し,表層の組織レベルの特徴を測定することで,このソフトマターの特性評価を可能にした.本研究では,レオメータにより計測されたマクロ的なレオロジー特性とナノインデンテーション試験による微視的な特性の関係からゲルやペーストなど塗装やコーティングに用いられる材料の塗布特性を明らかにする技術,すなわちナノ・レオメトリー技術の開発を目指した.最終年度はSNIが濃厚分散液,特に様々なマルチラメラ構造を持つ水中油型(O/W)エマルションの局所的な空間特性を測定できる可能性があることを実験により明らかにした.SNI試験よりJohnson Kendall Roberts(JKR)予測における等価弾性係数と付着仕事を算出し,局所的な特徴はラメラ二重膜の影響を受け,接着の仕事Δγはラメラ構造が占める空間の増加とともに単調に成長することを見いだした.これらの結果はエマルションの安定性や塗布特性に影響することから,マクロ的な測定では判別が難しかった特性を明らかにする新たな技術として本手法が有効であることを示すことができた.
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