本研究課題は,任意のイオン種の濃度測定を可能とするガラスキャピラリー電極の作製と局所イオン濃度の評価手法の創出を目指し,特徴的な電極構造を利用して液中に存在するイオン濃度を測定する新奇なイオン電極の原理の開発を目的とする.ガラスキャピラリーはひとつのナノ流路と考えることができることから,特有の界面動電現象を利用することにより,イオン種の識別可能性について検討する. 本研究では,(i)ガラスキャピラリー電極のイオンダイオード特性の評価,(ii)イオン濃度およびpHの較正曲線の作成,(iii)各種イオン濃度場の測定の課題に取り組む.ガラスキャピラリーの内液と外液に濃度差を与え,両液層間に非対称なイオン輸送を実現することによりダイオード特性の発現を確認する.さらに,ガラスキャピラリーを2連管または3連管とし,充填する液の成分を調整することにより,対象とする陽イオンの濃度を測定する.特に,先端直径が100 nm程度のガラスキャピラリーの場合,液中で負に帯電する内壁面に沿って電圧を印加するとき,陽イオンが支配的となるイオン電流が生じることから陽イオン選択性が現れると考えられる. 本研究では,ガラスキャピラリー電極の測定精度を確かめるため,オリフィス状の検査体積を持つリザーバに電解質溶液を満たし,ガラス電極を走査して導電率を解析した.その結果,1~100 mmol/Lの濃度において,5%以下の誤差で測定可能であることを確かめた.ここで提案した測定手法は,イオン電流環境下において液中の電位差を直接的に測定することから,事前のキャリブレーションを必要としない新しい方法である.さらに,3連管のガラスキャピラリー電極を作製し,pH緩衝液を用いて水素イオン濃度の測定を行った.電流に対する電位差の非対称性が見られ,整流比からpHの差が定量的に評価された.
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