研究課題/領域番号 |
21K18696
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新井 史人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90221051)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / マイクロマシン / 燃料電池 / 機械力学・制御 / バイオ関連機器 |
研究実績の概要 |
本研究では,生体液に存在するグルコースおよび酸素を燃料とするバイオ燃料電池と,その電位差に伴い発生する電気浸透流反力による自己推進機構に着目し,複数の自己推進機構と磁性ロッドからなるマイクロ泳動ロボットを提案する.理論推進速度・位置制御特性に基づく設計論を構築し,プロトタイプを用いた実験により,その自己推進速度,外部磁場による操舵制御を実証・評価し,生体医用マイクロロボット位置制御システムを実現する事に挑戦する.当初実施を計画していた課題項目は下記(1)~(3)である. 「(1) マイクロロボットの設計・作製 (2) 磁場操舵制御システムの設計・構築 (3) 模擬生態環境下での高速位置制御評価」 2021年度は主に上記課題項目(1)(2)を実施した.(1)では,従来の管形状のマイクロロボットと同等の理論推進速度を見込み,推進が生じる複数の開孔を備えた推進モジュールと,磁性ロッドから構成される外形約30μmのマイクロロボットを設計した.金属ナノ粒子とUVフォトレジストから構成されるコンポジットを主材料とし,フォトマスクを用いた複数回アライメント露光による製造方法により,30μmプロトタイプの製作に成功した.ただし,歩留まりに課題が残った. (2)では任意方向に均一磁場を生成するヘルムホルツコイルと,周期的に方向が変化する外部磁場を生成する磁場操舵制御システムを構築し, (1)で製作したプロトタイプを外部磁場により水中で回転させ,その運動の顕微鏡観察に成功した.プロトタイプ製造方法及び磁場操舵制御システムの改善を引き続き進めている. また,上記製造方法・回転磁場制御の派生技術として低侵襲緑内障手術を想定した磁気回転移動ロボットを考案した.そのプロトタイプを製作し,運動評価実験を行った.本年度の成果公開については 1件の国内学会発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に従い,下記課題項目(1)(2)を実施した. 「(1) マイクロロボットの設計・作製:マイクロロボットのサイズと理論推進速度の関係から数10~100 μmのサイズで10 μmの管プロトタイプが達成した100 μm/s以上を見込む設計を構築する.次にこれまで作製実績のない外形サイズ20~50 μmの光リソグラフィによる作製方法を確立し,1例として30 μmのマルチ自己推進機構ロボットを作製する.」 従来の管形状のマイクロロボットと同等の理論速度を見込む設計として,推進が生じる複数の開孔を備えた推進モジュールと,磁性ロッドから構成される,外形約30 μmのマイクロロボットを設計した.計画に沿った成果が得られた.紫外線硬化レジストSU-8に金属ナノ粒子を分散させたコンポジットを主材料とし,電極層には銀ナノ粒子及び酸化還元酵素を,磁性層には磁鉄鉱ナノ粒子を含ませた.ガラス基板に各層を順に塗布・露光し,フォトマスクを用いた複数回アライメント露光により,30μmプロトタイプの製作に成功した.歩留まりが悪い点は想定の範囲内であるが,露光条件などの最適化を行うことで,対応策は想定できている. 「(2) 磁場操舵制御システムの設計・構築:液体環境下でマイクロロボットを実時間で観察し,位置制御するシステムを設計・構築する.」任意方向に均一磁場を生成するヘルムホルツコイルと,周期的に方向が変化する外部磁場を生成する磁場操舵制御システムを構築し, (1)で製作したプロトタイプを外部磁場により水中で回転させ,その運動の顕微鏡観察に成功した.計画に沿った成果が得られた.プロトタイプ製造方法及び磁場操舵制御システムの改善を引き続き進める. また,上記派生技術として低侵襲緑内障手術を想定した磁気回転移動ロボットを考案し,運動評価実験を行った.本年度の成果公開については 1件の国内学会発表を行った.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度から引き続き2022年度は次の内容を実施する. 「(1) マイクロロボットの設計・作製」前年度製作したプロトタイプは歩留まりに課題があるため,露光条件などの最適化を引き続き行い,グルコース溶液中で流速の無い条件で,理論値と近しい自己推進速度を安定して得られるよう改善する.現状のマスクリソグラフィだけでなく,レーザ直描や,2光子吸収による手法も適宜取り入れる. 「(2) 磁場操舵制御システムの設計・構築」現状の制御システムは,フィードフォワード制御のみであり,更にロボットの画像情報から位置フィードバックを行うシステムに拡張する.また本ロボットは非ホロノミック系であるため,2輪車両等の制御戦略を応用し,フィードバック制御システムを設計し,実装する. 「(3) 模擬生態環境下での高速位置制御評価」上記課題項目(1)(2)を完了し,自己推進・操舵制御を用いた位置決め制御手法を確立する.まず,理論値に近しい推進速度で,円軌道など指定の軌道を描く運動を実証する.さらに画像フィードバックによる位置決めを評価する.次に,確立した磁場操舵制御システムを用いて生体環境を模擬した条件で高速位置制御評価を行い,生体応用への課題を抽出する.その際,ロボットの性能ばらつきやグルコース濃度に伴い生じうる推進速度変動を考慮する.次に環境の流速に抗する推進速度が生成できるか,流速分布に伴う粘性トルクに抗する操舵が可能か評価する.最後に漿液や牛などの血液を用いて評価を行い,グルコース溶液と異なる挙動,例えば,粘度の違いによる影響,赤血球などの生体物質への凝着の影響,流速分布の変化の影響などを評価する.これら抽出した課題に対し,解決策を考案・適用し,再度評価検証を実施し,生体適合性への可能性を明示する. 上記の研究成果について,国内・国際発表を行い,また,国際ジャーナル誌への外国語論文投稿を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
差額32,024円は,総額と比べて端数であり,翌年度分として請求した助成金と合わせて,翌年度に物品費として使用する計画である.
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