本研究は,極めて限られた情報処理資源(計算・通信・移動能力)しか有しない線虫C. elegansに着目し,自律ロボット群の協調的かつ効率的な探索行動アルゴリズムを構築することを目的とした.最終年度となる令和5年度は,前年度までに得られたモデル生物の行動原理を抽象化し,探索行動を効率的に行う自律ロボット群のためのアルゴリズム化および実機実装・実験による有効性確認を行った.前年度までの解析結果として線虫の化学走性においては,物質濃度が高まる方向への移動だけでなく,濃度勾配に直交するような方向成分を含む行動出力が見られた.このことが局所解に捕らわれることを防いでいるとの仮説と,これまでの解析結果に基づき,自律型移動ロボット群のための協調探索アルゴリズムを提案した.具体的には,複数の自律移動体が互いの座標系を一致させるような高度・広域な情報通信を行うことなく協調的に探索行動を行うための行動決定手順を構築した.またセンサ,バッテリ,制御装置,局所相互作用器を備えた完全自律型移動ロボットを複数製作し,実機実験を行った.実体を有するロボットでは,衝突回避のための挙動制限と探索行動との干渉による停留状態が生じうるが,探索方向と直交する成分の導入により,これを軽減して探索行動が可能であることを実機実験で確認し,その有効性を示した.これら研究期間を通じた解析およびシステム構築によって,大域的な通信や他個体・外部の状態との明示的な整合性調整を行うことなく,局所的な情報獲得・相互作用のみによって協調的な行動を可能とする手法およびシステム試作が達成され,限られた情報処理資源と単純な相互作用による,効率的なロボット群システムの実現に貢献した.
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