研究課題/領域番号 |
21K18713
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
白樫 淳一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00315657)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | Auナノギャップ / 人工シナプス / シナプス可塑性 / 物理リザバー / リザバーコンピューティング |
研究実績の概要 |
これまで本研究では、ナノギャップ構造におけるエレクトロマイグレーション現象を利用して、高抵抗なナノギャップ電極の狭窄化とトンネル抵抗制御が可能な、アクティベーション法を提案してきた。ここでは、独自に開発してきたアクティベーション法によるナノギャップのトンネル抵抗制御技術を利用して、シンプル構造で高抵抗なAuナノギャップシナプス素子の実現と、Auナノギャップでの短期記憶ダイナミクスを用いた物理リザバーコンピューティングへの応用を目指す。これらより、Auナノギャップを基礎とした新しい脳型コンピューティングの可能性を追求する。 今年度(令和3年度)では、アクティベーションを適用したAuナノギャップのシナプス動作にかかる研究を行った。代表的なシナプス可塑性であるShort-Term Plasticity(STP), Long-Term Plasticity(LTP), Spike-Timing-Dependent Plasticity(STDP)を、実際にAuナノギャップ素子へ実装することを目指した。初めに、Auナノギャップに対し、パルス電圧印加によるアクティベーション法を適用し、通電直後での出力電流を通して、シナプス結合の増強や自発的な減衰特性について測定した。これにより、シンプルなAuナノギャップを用いたSTPのシナプス可塑性についてその実現可能を評価した。次に、学習回数の増加が、減衰の時定数と安定状態でのシナプス荷重の増加として発現し、学習によりSTPからLTPへの遷移が可能であるかを検討した。さらに、パルス電圧の極性を反転させながら通電を行うことで、Auナノギャップの減衰特性を利用したシナプスのDepression効果を検討した。これらの知見を用いて、スパイクタイミングに応じてシナプス変調強度が変化するSTDPの学習表現が可能であるかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、応募者が独自に開発してきたアクティベーション法によるナノギャップのトンネル抵抗制御技術を利用して、Auナノギャップを用いた人工シナプス素子によるシナプス可塑性の実現と、Auナノギャップでの短期記憶ダイナミクスを用いた物理リザバーコンピューティング(RC)への応用を目指す。これらより、Auナノギャップを基礎とした新しい脳型コンピューティングの可能性を追求する。今年度では、代表的なシナプス可塑性であるSTP、LTP、STDPを実際にAuナノギャップ素子へ実装することに成功した。以上の研究成果から、生体シナプスの機能をAuナノギャップにより工学的に模擬できる可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Auナノギャップシナプス素子による脳型演算の実現を目指し、ニューラルネットワークにおいて必要不可欠である積和演算のハードウェアによるアナログ演算を検討する。次に、物理リザバーとしてAuナノギャップの短期記憶特性を利用したRCの実装を行い、Auナノギャップのリザバーダイナミクス評価やAuナノギャップアレイを用いた画像認識タスクを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関しては、演算サーバを整備する予定であったが、半導体サプライチェーンの問題に絡み当該システムの納品に時間がかかることが判明し、急遽導入を見送り、既存システムをチューニングしつつ活用した。旅費に関しては、発表予定の国際会議がコロナ対応のため全てオンラインで開催されたため支出の必要がなくなった。人件費・謝金に関しては、研究補助を予定していた博士後期課程大学院生が今年度から学振特別研究員に採用されたため支出の必要がなくなった。その他に関しては、昨年から続いている学内コロナ対応のため、感染状況に応じて研究室での実験活動が制限された場合に数値計算を用いた研究活動を行えるよう、各種の大型・高性能計算機使用料を見込んで計上したが、実際の使用額と見込み額が一致しなかった。次年度では、今年度に引き続きコロナの感染状況に即した研究活動となるため、今年度の経験を活かしつつ、今年度に整備できなかった装置類を導入しながら有効な予算計画を立てて研究を進めて行く。
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備考 |
白樫研究室HP http://web.tuat.ac.jp/~nanotech/index.htm
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