研究課題/領域番号 |
21K18715
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田口 大 東京工業大学, 工学院, 准教授 (00531873)
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研究分担者 |
間中 孝彰 東京工業大学, 工学院, 教授 (20323800)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 電子・電気材料 / 摩擦発電 / 緩和時間 / 永久双極子 / 自発分極 / 強誘電体 / 抗電界 / 内部電界 |
研究実績の概要 |
強誘電体は自発分極により電気の素「正負の電荷」を引き付けます。力を加えて自発分極の大きさを変えたときの変位電流が、新しい発電源として追及されています。一方で、電流の流れ方は変位電流と導電電流があり、導電電流による発電源としての強誘電体もあり得ます。本研究は、強誘電体の摩擦発電により導電電流として電力を取り出す過程を、電気電子材料物性の観点から明確化することを目指しています。摩擦発電も電力源として利用することで、強誘電体に蓄えられるエネルギーを変位電流と合わせて2倍取り出すことを目指しています。研究計画2年目の本年度は、下記の通り研究を進めました。実験は主にP(VDF-TrFE)(VDF:TrFE, 70:30 mol%)膜について進めています。 1.作製:分極形成処理を行うため、初年度は蒸着金属膜等を利用しました。しかし、分極形成後に強誘電体膜表面を摩擦する妨げとなり、分極処理と変位電流測定を同時測定して分極形成の確認を行うことも困難でした。本年度、導電性ゴムを電極として、分極処理と同時に変位電流測定で分極状態を確認して摩擦発電の実験ができるようになりました。 2.発電モデル:私たちの研究グループでは摩擦発電のモデルとして分極エネルギーを電気的仕事として取り出す世界初のコンセプトを報告しました(APL,2021)。強誘電体膜の摩擦発電をこのモデルで検討し、報告しました。I-V測定で評価した発電特性を強誘電体の誘電物性値(分極量、脱分極緩和時間、静電容量)と結び付けて説明できます。 3.評価:光学的測定(SHG)による電荷変位と双極子配向の分離評価波長の決定に引き続き取り組んでいます。 以上の成果をまとめ、国内学会・国際学会及び雑誌論文出版により公表しました。引き続き発電特性の向上を目指し、強誘電体の発電特性の鍵となる材料物性の違いを実験および理論の両面から明確化していきます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では強誘電体の摩擦発電の実現に取り組んでいる。研究グループが世界初で報告した光学的に電気現象を可視化する手法(SHG法)で発電ミクロ起源を評価し、誘電物性に立脚した分極エネルギーを発電源とするモデルを仲立ちとして、強誘電体の導電電流による発電の特徴の明確化を進めている。初年度に引き続き、2年目である本年度は下記通り研究を進捗させた。 (A)P(VDF-TrFE)膜(VDF:TrFE=70:30 mol%)を摩擦発電デバイスとして製膜し、I-V測定による発電評価システムを構築して測定を進めている。分極処理を行わないP(VDF-TrFE)膜でトルク2mNm、100 rpmのコットンラビングクロスによる摩擦発電で4 mW/m2の最大電力を得た(摩擦面積1 cm2で0.4 μW)。 (B)発電特性を分極エネルギーを発電源とするモデルで実験と理論の両面から検討を進めた。このモデルは、材料と誘電物性パラメータ(分極量、緩和時間、静電容量)とI-V測定で得られる電気回路としての発電特性(電流源、内部コンダクタンス)を直接結び付ける。熱刺激電流(TSC)測定でP(VDF-TrFE)膜の緩和時間を評価すると室温で180 sであり、これにより運ばれる電力として摩擦発電の発電特性を検討した。摩擦により開放電圧程度の分極が誘起され、この分極が電荷を膜内で運ぶ過程として最大電力を説明可能である。 (C)強誘電体の発電ミクロ起源(電荷変位と双極子配向)を選択的に評価するため、SHG測定系を構築した。さらに本システムを変位電流測定を同時測定できるように拡張した。これにより、強誘電体を分極反転させながら内部の発電ミクロ起源の評価をその場観察できるようにした。常誘電体と異なる摩擦発電の特徴を実験で明確化するために、さらに強誘電体の内部電界(局所電界)を直接評価する観点でも測定条件の同定を進める。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、最終年度は下記の項目について強誘電体の摩擦発電の研究を進める。 (a)P(VDF-TrFE)膜の分極形成を導電性ゴムで行い、I-V特性で分極量を変えて摩擦発電の最大電力を評価する。金属蒸着膜を用いずに自発分極形成ができるようになったため、変位電流測定により分極量を直接測定しながら分極量の異なる強誘電体膜を作製し、対応する摩擦発電のI-V特性を比較できる。そして、分極量と最大電力の関係を明らかにし、強誘電体の摩擦発電の特徴を実験から明確化する。 (b)分極エネルギーを発電源とするモデルにより強誘電体の摩擦発電を説明する。熱刺激電流(TSC)による誘電物性評価を自発分極の有無に着目して行い、強誘電体の物性値と発電特性の結びつきを実験及び理論の両面から明確化する。具体的に、TSC及びインピーダンス測定による誘電物性値(分極量、分極の極性、緩和時間、静電容量)と、摩擦発電のI-V測定による発電特性(電流源、内部コンダクタンス)を、分極エネルギーを発電源とするモデルを仲立ちとして検討する。 (c)光学測定(SHG測定)によるP(VDF-TrFE)膜の2つの発電ミクロ起源(電荷変位と双極子回転)を評価するレーザー波長をSHGスペクトル測定により最適化する。そして、I-V特性で評価した最大電力が強誘電体膜の内部に蓄える分極エネルギーの2つの発電ミクロ起源について、その割合を決める。外部電圧印加による強誘電体の分極過程に対して、発電を行う分極過程の特徴を実験から明確化する。SHG測定による電界評価を強誘電体の内部電界(局所電界)の評価手法としても検討し、内部電界に蓄えられるエネルギーの取り出し過程として摩擦発電を検討する。 以上について強誘電体の摩擦発電を導電電流による発電の観点からまとめ、研究全体の総括を行う。
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