前年度までの成果に基づきP(VDF-TrFE)膜の発電デバイスを作製し、実験および理論構築を進めた。自発分極Ps(=1.1μC/cm2)の向きを制御した上で、I-V測定による出力電力評価を行った。I-V測定時は電極位置不変で摩擦し、静電気による正負電荷分離は定常電流に寄与しない。最大電力は分極処理前に1.1mW/m2で、分極処理後は+Psで8.2 mW/m2、―Psで30.4 mW/m2である。自発分極の極性によらず電力は増大し、分極の向きではなく配向秩序の形成により出力電力が変化したと考えられる。実験結果に基づき、摩擦が分子配向をそろえて配向秩序をつくってエントロピーが低い状態が形成し、この状態が自発的に無秩序化する過程で電力が外部負荷に送出されるとする世界初の発電機構として理論化した。さらに、エントロピーによる物理的モデルを等価回路モデルで表すことにも成功し、時間軸及び周波数空間で出力を最大化する電力整合条件を導出できた。これにより、誘電体の分子配向秩序によるエントロピーの自由エネルギーへの寄与分が、摩擦のつくる分極 P0の緩和過程をともなって電気エネルギーに自発的に転換することで生じる発電過程であることを明確化し、電力を送り出す緩和時間τと電力を受け取る側の回路時定数CsRが一致する場合に最大出力Pm=1/τ(P0^2)/(4Cs)を理論限界として与えるとして定式化した。熱刺激電流(TSC)測定で実験から緩和時間を決め、緩和時間が長く配向秩序の無秩序化が生じない-30℃では発電がないが、無秩序化の生じる30℃で1mW/m2の出力に増大するなど、理論予想を支持する実験事実を得た。以上により本研究では、従来の静電気をつくりだすための摩擦を脱却し、分子配向秩序をつくる摩擦の働きが新しい電気エネルギー源として利用できるという、これまでにない発電メカニズムを明確化できた。
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