研究課題/領域番号 |
21K18735
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
粟野 博之 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40571675)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 光通信レーストラックメモリ / 高速磁壁駆動 / 希土類/遷移金属合金・多層膜 / レーザーアニール / ナノインプリントスピンデバイス / ジャロシンスキー守谷相互作用 / 高感度化 / 赤外記録 |
研究実績の概要 |
研究目標である光通信の光パルスで高速光磁気記録できるレーストラックメモリの記録再生実験用テスタの設計を行い、部品を買い集めて組み立てを開始した。光通信では波長1.55μmが使われているが、この入手可能で手ごろな価格の変調可能な光源が見つからなかったため、波長1300nmの変調器を入手した。これを現有の偏光顕微鏡に組み込んだ。最短パルス幅は40psecなので、25Gbpsのデータレートを目指した評価機となる。 光通信用の光パルス強度は小さいので、弱い短パルス光で光磁気記録できる材料開発が必要になる。そこで、磁化反転をアシストできる材料探索を行った。通常、磁気記録には高密度記録可能な垂直磁化膜が利用される。しかし、垂直磁化膜に磁気記録するための記録磁界を印加した場合、記録したい局所磁化だけを外部磁界で反転する必要がある。このとき磁化反転には磁気トルクが必要となるが、記録したい磁化方向は外部磁界と反平行のため磁気トルクが働かず記録困難となる。そこで、レーザー光で媒体を局所加熱して、記録したい部分だけ保磁力を低減する。そこで、新しい取り組みとして、記録媒体の界面の磁化に面内成分を与える方法として、磁性層と重金属層の接合面であるヘテロ界面に生ずるジャロシンスキー守谷相互作用(DMI)の効果を確認することにした。そこで、光磁気記録の記録材料として利用されていたTbCoフェリ磁性材料とDMIが大きいとされるPtとのヘテロ界面媒体を作成し、光磁気記録を行った。比較のために、DMIの小さなCuとのヘテロ界面を持つTbCo膜も作成し、両者の光磁気記録感度の違いを評価した。ここで問題となるのがPtとCuの熱容量の差である。同じ光エネルギーを照射すると、熱容量の小さなTbCo/Cuは昇温しやすく、熱容量の大きなTbCo/Ptは昇温しにくい。しかし、記録感度はTbCo/Ptのほうが良好であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光通信に利用されているわずかな光強弱信号を利用して光磁気記録し、記録した磁区は瞬時に電流で移動させるレーストラック光磁気メモリの記録再生装置の設計、組み立てを行った。光源には入手しやすい波長1300nmの変調器を購入し、現有偏光顕微鏡に組み込んだ。また、媒体への集光光スポット位置を確認するため赤外カメラも用意した。記録できたかどうかは静的な評価であれば偏光顕微鏡の磁気イメージ観察によって知ることができる。一方、記録性能の定量的な評価を行うためにはTMRヘッドか、光検出器が必要となる。両者をそろえたが、扱いが簡単な光検出器を利用する。これをこの顕微鏡に組み込むことによって動的な記録性能評価を行うことができる。 上記記録再生装置を立ち上げつつ、媒体開発も行った。微弱な短パルス光で光磁気記録可能な媒体の一つの候補として、磁性層/重金属層ヘテロ界面の磁性層における磁化のゆらぎを利用した記録アシスト効果を発案した。この確認のため界面での磁化hの揺らぎの大きなTbCo/Ptヘテロ界面試料と界面での磁化のゆらぎがほとんどないTbCo/Cuヘテロ界面試料を作成し、この比較実験を行った。TbCo/Cuヘテロ界面試料では熱容量的に優位にもかかわらず、TbCo/Ptヘテロ界面試料のほうが小さな記録磁界、あるいは小さな記録パワーで記録できることが分かった。これはPtの大きなジャロシンスキー守谷相互作用が効いているためと考えられる。 記録レーザーパワーを低減するもう一つの試みとして、レーザーアニール効果を確認した。磁性細線を作成し、この細線全領域にレーザー光を掃引照射して磁性膜の垂直磁気異方性エネルギーを低下することで、光磁気記録する方法である。弱いレーザーパワーを照射するだけでも記録パワーを40%低減できることがわかった。この低減理由を解析し、更なる記録レーザーパワー低減条件を探す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であり、本提案の優位な結果を残せるように効率よく計画を進める。そのため光通信光の微弱な光パルスで記録磁区を形成し、電流で記録磁区を送り出す光磁気記録レーストラックメモリの評価装置を完成させ、光パワー感度を向上したレーストラックメモリの評価を開始する。当初、記録確認はこれを組み込んだ現有偏光顕微鏡で記録の有無を静的に確認するが、当該装置に組み込んだ光検出器での動的な評価も行えるようにする。 記録媒体としては、DMIを利用した記録感度向上策が見えているので、この有効性を記録再生評価機で確かめる。また、レーザーアニール効果の記録感度向上策の有効性についてもこの記録再生評価機を使って効果を定量的に確認する。しかし、これだけでは必要な記録感度を得ることができない可能性も考えられる。そこで、ナノインプリントプラスチック基板を用いた光磁気記録評価も行う。光磁気記録開発時にはガラス基板を利用していたが、微弱な光パワーしか得られないレーザーで記録するためにはプラスチック基板が有用であった。そこで、本実験でもプラスチック基板を利用するため、簡便に磁性細線を作成可能と提案しているナノインプリントプラスチック基板を使った磁性細線を試作することで、所望の光記録感度を実現する。また、ナノインプリントによって細線幅を狭くすることを容易に行うことができる。細線幅が広いと熱エネルギーは細線横方向に逃げることになるが、細線幅を狭くすることで熱エネルギーの有効活用することにもなる。一方、高速に磁区を電流駆動するためには、記録磁区が細線に対して直交していることが必要である。細線幅が広くなると細線中央部の温度が細線エッジよりも高くなり、この温度分布により電流駆動磁壁が丸くなり、移動速度の低下が問題となる。しかし、細線幅が狭ければ磁壁形状を直線的に維持しやすくなり省電力高速駆動が実現できる。
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