研究実績の概要 |
本研究は,「エントロピー生成最大化(Maximum Entropy Production: MEP)原理」を援用して,樹状構造をなす河道網や樹木の枝,自然界の縞模様や斑模様の形成要因を解明することを目的として実施した. 2021年度は,平板上の開水路流に単純化した降雨流出モデルを構築した.このモデルを利用して河道領域とそれに接続する斜面領域における摩擦損失エネルギーを計算した.MEP原理に従って河道網は形成されると仮定すると,全摩擦損失エネルギーが最小になるように河道と斜面の面積が最適配分される.構築したモデルでこの仮説を検証した結果,全摩擦損失エネルギーが最小となる河道網は実在する流域の河道網に似た構造となることが分かった(後藤・横尾,2022; 2023). 2022年度は,縞模様の河床波がMEP原理によって形成される可能性を検討した.反応移流拡散方程式に立脚したモデルを用いて反応・移流・拡散の各現象が一定の条件を満たす場合にのみ,河床波が形成されることを確認した(荒木・横尾,2023). 2023年度は,降雨流出氾濫モデルを利用して,実流域における河道および斜面における全摩擦損失エネルギーを計算した.その結果,全摩擦損失エネルギーを最小化する河道および斜面の構成比率は見出せなかった(阿部・横尾,2024).これは,2021年度に実施した試算とは計算方法が異なることが原因であることが後に判明した.また,反応移流拡散方程式に立脚した河床波モデルを用いて,反応・移流・拡散の各現象が河床波の成長に与える影響を定量的に明らかにした(Araki and Yokoo, 2023; 荒木・横尾,2024).
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