研究課題/領域番号 |
21K18756
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
秋山 充良 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00302191)
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研究分担者 |
リム ソーポーケム 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (60801305)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 鋼繊維補強コンクリート / せん断 / 杭 / X線撮影 / ディジタル画像処理 / 遠心成形 |
研究実績の概要 |
研究代表者らは,杭体への適用を念頭に,曲げモーメントは軸方向鉄筋により負担させる一方で,せん断ひび割れの発生と進展の抵抗に鋼繊維を利用し,せん断補強鉄筋の代替とする検討を試みている.2021年度には,実験室内で小型モーターを用いた遠心成形装置を製作し,コンクリートの配合や遠心成型時の回転速度や回転時間が鋼繊維の配向に及ぼす影響などの基礎検討,および,同定された最適な条件で製作したSFRC杭のせん断実験を行った.その結果,鋼繊維量の変化に対するせん断強度の増加割合は,既往のSFRC部材の曲げ実験で得られた終局曲げモーメントの増加割合よりも相当に大きいものであり,鋼繊維はせん断補強鉄筋の代替として用いる方が効果的であることを確認した. しかし,2021年度のSFRC杭の実験では,トルクモーターを使用しており,そのトルク性能の限界から杭体の直径は154 mmに固定されており,また,コンクリートパイルの製造に用いられる実機を用いた遠心成形工法とはコンクリートの投入法や遠心力の与え方が異なっている.そこで,2022年度の研究では,直径200 mmと350 mmのSFRC杭をパイル工場内の実機を用いて製造した.まず,X線撮影を行いながら,鋼繊維を部材軸直角方向に配向させる条件(鋼繊維形状や遠心成形法)を整理した.次いで,せん断実験を行い,鋼繊維の有無や杭径がせん断強度に及ぼす影響を検討し,鋼繊維によるせん断補強鉄筋の代替可能性を検討した.特に,SFRC部材では,鋼繊維の効果によりせん断ひび割れが分散して発生するため,鋼繊維を使用しない通常のRC部材に比べて,寸法効果の影響が低減される可能性が指摘されている.本研究でも杭径によるせん断強度の違いを考察し,SFRC杭における寸法効果の基礎資料を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目的は,鋼繊維が杭体内に均一に分布し,それを杭軸直角方向に配向させることで鋼繊維にせん断補強鉄筋の代替効果を期待した,せん断補強筋を必要としない遠心成形SFRC杭を開発することである.2022年度は,プレキャスト工場で用いられている実機の遠心成形装置を用いたSFRC杭の製造を実現した.せん断力に対して有効に抵抗できる鋼繊維分布と配向を実現できる配合を見出し,それを用いての杭の製造を行っている.得られたせん断強度から,鋼繊維はせん断補強鉄筋の代替になり得ることを確認できた. この成果に基づき,最終年度となる2023年度は,鋼繊維の種類(長さ,径,および端部のフック形状),せん断スパン比,あるいはハイブリッドタイプの実験を行い,SFRC杭のせん断強度算定式を提示する.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 2022年度に製造したSFRC杭は,鋼繊維が多く分布している箇所では,ひび割れを跨ぐ鋼繊維の架橋効果により,ひび割れ幅の拡大が抑制されていた一方,鋼繊維の分布が少ない箇所では,ひび割れ幅が拡大していた.3D鋼繊維と比較して,5D鋼繊維はダブルフックを有することから,ひび割れに対する架橋効果が優れていると予想されるため,鋼繊維量を増加し,かつ,ダブルフックを有する5D鋼繊維を用いることで,このようなひび割れの拡大が抑えられ,さらなるせん断耐力の増加が期待される.したがって,2023年度は鋼繊維量を大きくし,さらに5D鋼繊維を用いたSFRC杭のせん断試験を行い,鋼繊維量および鋼繊維形状の違いがせん断耐力に及ぼす影響について,検討する. (2) せん断耐力算定式について,2022年度に提案した式は,直径350 mmのSFRC杭において,せん断耐力を過小評価することが確認された.これは,実際の鋼繊維情報からせん断に寄与する鋼繊維の割合を算出しているが,直径350 mmの供試体は,鋼繊維情報を取得したSFRC杭と比較してかぶりが大きく,鋼繊維の配向がさらに改善されたためと考えられる.したがって,2023年度は,軸方向鉄筋の配筋間隔および軸方向鉄筋の有無をパラメータしたSFRC体を作製し,軸方向鉄筋が鋼繊維配向に及ぼす影響を検証する. (3) 2022年度に製造した遠心成形SFRC杭のせん断実験から,通常のRC杭と比較して,寸法効果が大きく低減されることが示された.しかし,その杭径は200 mmと350 mmであり,主に使用される杭径が300 mmから1200 mmであることを考慮すると,比較的小さい.そこで,2023年度は,さらに大きい杭径を持つSFRC杭のせん断実験を行うことで,杭径が大きい供試体においても,同様の結果が得られるのかどうか,検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
24,394円を次年度に使用することになった.これは,当初予定していた2022年度実験に要した消耗品購入時に,業者から割引を得られたこと,および2023年度も大規模なせん断実験を実施する予定であり,その実験の消耗品購入に充てることにしたためである.
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