研究課題/領域番号 |
21K18762
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福島 佳浩 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (60883105)
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研究分担者 |
今井 公太郎 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20262123)
松本 直之 東北大学, 工学研究科, 助教 (30814389)
伊東 優 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (90839523)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | AM技術 / 三次元計測 / 木造架構 / 構造補強 / 建造物保存 / ジャイロイド / CFRP / モニタリング |
研究実績の概要 |
【現地調査】実証実験を行う実大木造建築物について、現況把握を目的とした調査を継続して実施した。三次元計測については、補強箇所として想定している構面について、多数の画像から三次元形状を復元するフォトグラメトリ技術を用いたスキャンを実施した。昨年度実施したレーザ型3Dスキャナと比べると、マーカ貼付を要しない分、簡便ではあるものの精度は劣る傾向にあるが、両モデルを重ねて比較したところ、構造補強目的としては十分な精度を有していることが確認できた。モニタリングについては、計測によって得られた加速度および温湿度のデータを分析したところ、建物の固有振動数の季節変化がみられた。固有振動数の変化は温湿度から算出される平衡含水率と線形関係にあり、既往研究と同様に、平衡含水率が小さくなるほど固有振動数が小さくなる傾向が確認された。今回の分析は夏季のデータがメインであったため、次年度は通年での季節変化の傾向および構造補強前後における振動特性の変化を検証する予定である。また、モニタリングの運用安定化を図るため、計測システムの更新を行った。 【補強方法の検討】昨年度実施した実測調査に基づき、構造解析モデルを作成した。木造住宅倒壊解析ソフトウェアwallstatを用いて、構造補強候補部位の強度・剛性をパラメタとしたパラメトリックスタディを行い、構造補強効果に関する事前検討を実施した。検討の結果、昨年度実験を行ったジャイロイド構造を用いて垂れ壁部分を補強する案と、吹き抜け部分の水平剛性を引張材を用いて向上させる案が補強内容の候補として挙がり、次年度に実大木造建物にて実証実験を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【現地調査】複数の三次元計測技術を用いて実測調査を行い、伝統木造建築物を計測する上での各計測方法の利点・欠点を確認できた。特に、補強対象として想定している垂れ壁架構については、レーザ型スキャナでは全体の三次元計測を実施するために多くの手間を要するが、フォトグラメトリ技術を用いることで、要求精度を満たしつつ、垂れ壁架構全体の三次元形状データを取得することができた。モニタリングについては、夏季において、既往研究と同様に平衡含水率と固有振動数の関係に明確な線形関係がみられたため、安価なMEMSセンサを用いて伝統木造建築物の挙動をある程度まで診断できることが確認できた。また、これまでに設置していた計測システムでは、計測中にデータ欠落などの不具合がみられたが、センサやサーバを入れ替えシステムを刷新したことで、比較的安定的に計測が継続できるようになった。 【補強方法の検討】建物全体に関する補強方法の検討については、実測調査に基づいて作成した解析モデルを用いて検討が進められている。部分架構に関する補強部材形状の具体的な検討については、三次元計測結果に基づき、現在検討中である。また、簡易試験体を用いた補強効果の確認については、試験体形状の検討までは終了しており、令和5年度に試験を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
【補強部材の検討】ジャイロイド構造を用いた垂れ壁構面の補強については、簡易試験体を用いた実験的な検討を実施する。構造補強効果の確認が主であるが、意匠や光環境の検討も並行して実施し、最終的な補強部材形状を決定する。吹き抜け部分については、引張材と木部材の接合部に3Dプリント部材を用いることを想定し、部材形状の検討を実施する。 【実大木造建築物を用いた実証実験】簡易試験体を用いた実験で得られた結果を建物全体の構造解析モデルにフィードバックし、建物全体に対する補強効果を確認する。三次元計測によって得られた実物の形状に合わせて補強部材を作成し、対象建物に設置した上で、設置前後のモニタリングデータについて季節変化の影響を考慮した比較を行い、振動特性の変化を定量的に確認する。また、構造解析モデルを用いた事前検討とモニタリングデータを用いた検討の比較を行うことで、既存建物の構造補強における設計時の想定と実況の対応について確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
垂れ壁架構を再現する部分試験体の設計までは進めているものの、試験体の発注および実験が未実施のため、試験体作成費および実験所利用料を次年度使用額として繰り越している。令和5年度に本実験を実施する際に、これらの経費を使用する予定である。
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