研究課題/領域番号 |
21K18763
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大岡 龍三 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90251470)
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研究分担者 |
菊本 英紀 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (80708082)
呉 元錫 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (10889009)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 飛沫感染 / 空気感染 / 呼吸活動 / 飛沫 / 飛沫核 / エアロゾル / PIV / パーティ クルカウンター |
研究実績の概要 |
本研究は、人の活動(咳、くしゃみ、会話)を通じて噴出される飛沫・飛沫核が室内環境へ飛散および拡散する物理的な現象を計測により明確に把握し、数値解析手法(CFD)で再現することを目的とする。 咳、くしゃみ、会話等の呼吸活動行為は、気流(気体)と飛沫・飛沫核(液体)が混在する流れを生成するが、異なる相を同時に観測することは困難であるため、相ごとに特性を把握して計測した実験結果を統合して解析する手順で研究を行った。 1.人の呼吸活動による気流特性の把握に関する研究 今年度は、レーザー光を利用するPIVを用いて人の呼吸活動(咳、くしゃみ、会話)による気流の特性を計測した。また、PIV実験から得た噴出気流の計測結果から特性を解析することで、気流分布に相当するCFDの境界条件を検討した。加えて、その境界条件に基づいて人呼吸活動(咳、くしゃみ、会話)により発生する気流の流れが再現できるCFDモデルを構築した。 2.人の呼吸活動により発生する飛沫・飛沫核の粒径分布の把握に関する研究 人の口から噴出された飛沫および飛沫核の粒子は、時間の経過とともに蒸発することで粒径が変化し、その粒子の浮遊時間は口からの距離に概ね比例する。人の息の気流が妨げられないようにチャンバー内部を空け、逆流の発生を防ぐために一定の方向の気流を形成するような設備を設計した。また、呼吸・咳・会話などの行動により呼吸器から発生するエアロゾルの粒径分布をパーティクルカウンターを用いて計測し、噴出した粒子の空間濃度分布を把握して各呼吸行動によるエアロゾル粒子の拡散傾向を比較した。1 μm以下の粒子は深呼吸条件が、6ー10 μmの粒子は咳の条件が最も多かった。また、咳の場合、エアロゾルの濃度が0.6 m、口腔呼吸は0.3 mまで現れ、会話は呼吸や咳より粒子が左右に広がる傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究計画は、呼吸活動による気流の特性を計測により把握し、その特性を数値解析を活用して再現することであった。 咳、くしゃみ、会話の行動により生成される気流を粒子画像流速計を活用して測定した。空気中に煙粒子を満たして煙粒子の挙動を観測することで、呼吸活動により生成される気流の流れが計測できる。しかし、被験者から吐き出す息により煙粒子が除去されるため、煙の噴出方法を講じする必要があった。測定データを確認しながら試行錯誤することで適切に煙を生成させることができ、良好な測定結果が得られた。また、呼吸気流の計測結果をアンサンブル平均分析することでデータを統合し、数値解析を活用して再現した。 粒子の粒径分布の観測については、10 μm以下の小さな粒子に対して空間濃度分布を確認することで粒子の拡散性を検討した。室内環境では微粒子の濃度が高いため、微粒子を除去した環境を作るために新たに小型風洞チャンバーを作製した。HEPAフィルターを活用することで、室内空気中の微粒子を除去した清浄な空気を小型風洞チャンバーに流すことで呼吸活動により噴出する粒子の粒径分布を計測した。 呼吸・咳・会話などの呼吸活動により、呼吸器から発生するエアロゾルの空間位置に応じた粒径分布を測定して、呼吸特性に応じたエアロゾル粒径分布の特性を把握した。また、空間濃度分布を把握することにより、各呼吸活動に伴うエアロゾル拡散特性を可視化した。1 μm以下の粒子濃度は深呼吸条件が、6ー10 μmの粒子濃度は咳の条件が最も高かった。また、咳の場合、エアロゾルの濃度が0.6 m、口腔呼吸は0.3 mまで現れ、会話は呼吸や咳より粒子が左右に広がる傾向が現れた。
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今後の研究の推進方策 |
人の呼吸活動により発生する粒子は、体内での発生位置が異なり、相対的に小さい粒子(10 μm以下)は肺から、大きい粒子(10 μm以上)は声帯および口腔の唾液によって生成される。10 μm以上の粒径は、干渉画像法(IMI)を活用することで計測が可能であるが、10 μm以下の粒径の観測には限界がある。従って、パーティ クルカウンターを追加的に活用して10 μm以下の粒子を計測する必要がある。 今後の研究推進方策としては、IMI技術を用いて10 μm以上の粒径分布を把握し、PIVとIMI技術、パーティクルカウンターを併用して活用することで人の活動による人体周辺の気液二相流の計測データを収集する。加えて、その計測データの特性を反映してCFDモデルを構築することを目標にする。また、構築した呼吸活動による気流と飛沫・飛沫核のCFDモデルを用いて様々な環境における感染リスクを評価して呼吸器感染症の拡大防止対策を検討する。
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