研究課題/領域番号 |
21K18768
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
金田一 清香 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (00396300)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | ウィズコロナ / 換気 / PCM / エネルギー効率 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス感染予防のため換気量増大のニーズが高まる一方で、空調エネルギーの増大が懸念される。また、カーボンニュートラル社会に向け、需要側では空調用途のエネルギー効率改善が重要な課題となっている。近年、省エネ空調設備として、インバータヒートポンプが普及してきたが、低負荷域の非効率な運転時間が多い問題があった。本研究では、コロナとの共存・カーボンニュートラルの未来を見据え、換気量の増大とエネルギー効率の向上という、相反する二つの課題を同時に達成する、新たな換気・空調一体システムを開発することを目的とする。そのために、短時間での熱の出し入れと室温調整機能を可能とする蓄熱媒体(サーマルバッファ)を新たに開発する。サーマルバッファは相変化材料(PCM)からなり、室内の空調負荷が比較的小さい時期に、空調に加えてサーマルバッファへの蓄熱と外気の温度調節も行うことで、インバータヒートポンプの見かけ上の効率を向上させることを意図している。蓄熱が完了次第、ヒートポンプは停止し、送風モードによりエネルギーをほとんど使わずにPCMからの放熱で室内の空調負荷を処理する。この蓄熱-放熱サイクルを概ね1時間程度の頻度で繰り返すことにより、エネルギーを増大させることなく換気量を増大させることを目指す。このような用途に対して、20℃近辺で相変化を行い、潜熱量が大きいPCMが必要であり、文献調査の結果、カネカ製のヘキサデカンを主体とするPatthermo F20が有望と判断された。示差走査熱量計(DSC)により得られた比熱特性を用い、空調ダクト内での封入方法やそのときの熱交換特性を3次元CFD解析により分析するとともに、空調システムシミュレーションを行い、概ね想定とおりの蓄熱-放熱サイクルが可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度、各種文献やメーカーのwebサイトを調査した結果、PCM候補材料としてカネカ製のヘキサデカンを主体とするPatthermo F20が選定された。示差走査熱量計(DSC)により比熱特性を分析した結果、相変化温度は20℃前後、相変化時の蓄熱量(潜熱量)は200kJ/kg程度と概ね良好な熱特性であった。DSCで得られた比熱特性を用い、管径9-12 mmのアルミチューブ内に封入し、空調ダクト内に千鳥格子状に配置した場合の熱交換特性を3次元CFD解析により分析した。PCM 管径が小さいほど熱交換率は向上し、今回の解析の範囲においては最高36 W/m2/Kが得られた。一方で、管径が小さいことで圧力損失が増大するため、ファンの設計を含めた圧力損失に対する検討が必要であることがわかった。 また、CFD解析で得られた熱交換率を空調稼働シミュレーションに与えたところ、蓄熱-放熱サイクルは概ね想定通りとなり、PCM通過後の出口空気(室内への吹き出し空気)は蓄熱時15℃程度、放熱時22℃を保つことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、今年度CFD解析で行った熱交換器の形状検討を踏まえ、実際にサーマルバッファの試作を行う。相変化時の体積変化を吸収できるよう、PCMは柔軟性・弾力性を持った素材に封入する。伝熱性能の観点から、プラスチックだけでなく、汎用の金属管等についても検討する。試作品が完成次第、200 mm角、長さ10 m程度の空調用ダクト内にサーマルバッファを設置し、室内還り空気に外気導入分を考慮した給気を与えるときの熱交換性能および調温効果を測定する。実際の運用を模擬して、暖房想定時は運転時35℃、停止時20℃程度、冷房想定時は運転時15℃、停止時28℃程度の一定温度の給気を与えるときの出口空気温度やPCMの相変化状況を測定した後、インバータヒートポンプ(エアコン)実機を用い、比較的低負荷となる時期(冷房期は5月や10月、暖房期は11月や3月)に実際の気象条件下で省エネ効果を検証する。 これらの実験結果は空調稼働シミュレーションでの再現性検証のバックデータとして用いる。最終的には、実際のオフィス等への適用を想定したシミュレーションを行い、蓄熱-放熱サイクルの詳細な制御を改善することで、省エネ効果の最大化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は以下の2点である。ひとつめに、材料(PCM)の選定がスムーズに行うことができ、メーカーの好意でサンプルの無償提供を受けられたこと。2つ目に、比熱測定のための示差走査熱量計(DSC)についても、学内共通施設を使えることがわかり、外部委託をするより計測費用が安く抑えることができたことである。 一方、現在進めているサーマルバッファ試作の過程で、当初の想定よりPCMの粘度が高く、封入方法の工夫に時間やコストを要することがわかってきている。したがって、初年度発生した差額はサーマルバッファの製作費に充てたいと考えている。
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