研究課題/領域番号 |
21K18771
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
後藤 春彦 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70170462)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 都市・農村計画 / 広域的圏域 / 首都圏郊外 / 商圏 |
研究実績の概要 |
計画時は対象地を長野県飯田市に設定していたが、新型コロナウイルス感染症拡大により遠距離出張および長期滞在が難しくなったため、都市域と農村域が隣接・混在をする首都圏郊外地域を対象として研究を進めることとした。調査を進めるにあたり、首都圏郊外に展開する戸建住宅販売会社(P社)、団地管理会社(J社)、エネルギー会社(E社)の3社と連携をした。2021年度は、「Step1 理論的仮説の構築」と、「Step2実証的分析」の一部に取り組み、下記3点の成果を得た。 日本版都市・農村計画のフレームワークを設定するために、「(1)都市・農村計画の理論的枠組みの検討」を行った。ここでは、まず、都市・農村計画を検討する上で重要な田園都市論について都市農村計画の視点から論点を把握した。これをふまえ、都市域と農村域が混在する首都圏郊外地域の特徴について整理し、実際に現在の首都圏郊外地域において設定可能な計画単位を見出すための枠組みや条件の設定を行った。 そこから、広域的圏域の計画単位を設定するために「(2)広域的圏域における範域設定方法の検討」として、先行研究や事例および首都圏郊外地域の現状について整理し 従来は、都道府県や市町村域が広域的圏域の範域や意識決定の単位とする考え方が主流であったことに対し、首都圏郊外地域では、住宅供給や住宅のアフターメンテナンス、農産物の地産地消といった、住民の生活に合わせて事業を展開する民間企業の活動エリア(商圏)が複層的に展開しており、民間企業がまちづくり主体となることを想定するならば、これらが潜在的な計画単位となりえる可能性を示した。 その上で、範域内における具体的な計画手法として「(3)都市域と農村域の再編集技術の開発」に取り組み、自治体・住民・民間企業がそれぞれ関わり、地域を再編集するアセスメントキットを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で対象地の変更が生じたものの、首都圏郊外地域に活動展開をする民間企業との提携も得ることができ、調査計画自体の大きな変更はなく、「Step1 理論的仮説の構築」を当初の予定通り進めることができ、さらに「Step2実証的分析」の一部も着手できた。 具体的には、文献を中心とした資料調査と、いくつかの首都圏郊外地域の実地調査から、田園都市論の思想や理念、日本における展開と現代的解釈、および首都圏郊外地域の都市・農村計画の現状について把握を進めた。これより、都市域と農村域が隣接・混在する首都圏郊外地域を同一のものとみなすのではなく、地域の風土地理的条件、歴史的背景、現在の住民の生活スタイルや公共インフラ・住民サービスのあり方等を加味した地域特性をふまえた計画単位を把握することの必要性が明らかになった。 そこで、事例調査を進め、提携企業、戸建住宅販売会社(P社)、団地管理会社(J社)、エネルギー会社(E社)より、自社のサービス提供エリアに関する情報を得ることもできた。その結果、食や住に関わるサービスを提供する民間企業の活動エリアが、市町村の領域を越え面的に広がっている、あるいは広域に点状に分布しているという特徴がみらた。これらは住民の生活実態と密接であり、計画単位を設定する上で有用な知見を得ることができた。 これら理論の構築と検証を進める一方で、理論を現場に落とし込む際に、具体的に計画に介入する技術が求められることが想定されたため、実際に都市域と農村域の再編集をする際に必要な技術として、アセスメントキットを開発することもできた。これは、首都圏郊外地域において、都市域と農村域が隣接・混在する住宅地を単位とし、既存住宅地を点検し、特徴や課題を把握しながら、住民・行政・民間企業が一体となって地域を計画する手法に位置付けられるもので、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2022年度は、「Step2実証的分析」と「Step3理論の検証・実践的応用」に取り組む。 まず、「(1)都市・農村計画の理論的枠組みの検討」で検討した計画単位を見出すための枠組みや条件の設定については、自治体や民間企業との意見交換を行い、その実用可能性について検証を行うとともに、理論の精緻化を目指す。また、ここでは、公共的なサービスの実施、財源の調達、意思決定方法(計画運用)における主体のあり方についても先行研究の整理ならびに実例の分析から明らかにする。 つぎに、「(2)広域的圏域における範域設定方法の検討」として、潜在的な計画単位として可能性が見出された民間企業の活動エリア(商圏)について、事例調査を進める。具体的には、首都圏郊外地域で自治体の範域を超えた活動エリア(商圏)を持つ戸建住宅販売会社(P社)、団地管理会社(J社)、エネルギー会社(E社)について、具体的な範域、範域の決定の仕方、提供されるサービスの内容等についてヒアリングを行う。また連携したP社、J社、E社にとどまらず、幅広い民間企業活動におけるエリア設定のあり方に関する経営学やマーケティング分野の研究実績を援用する。さらにこれら民間企業の事業における公共的事業への展開可能性について、近年顕著なCSV事業の現状を踏まえて分析を加える。これらの調査・分析を重ねることにより、民間企業の活動エリアを踏まえた都市と農村を一体的に計画する空間計画単位を設定する方法を開発する。 加えて、「(3)都市域と農村域の再編集技術の開発」として、2021年度に開発したアセスメントキットの実証を、複数の対象地を設定し行う。得られた成果を元にアセスメントキットのブラッシュアップを行い、社会実装可能な状態にする。 さらに、これらの成果を踏まえて、日本版都市・農村計画の導入のための理論的枠組みを提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のため、現地調査が当初想定したように満足に行えず、旅費と人件費・謝金ほかを消化できず、次年度使用額が生じた。 新年度からは、移動の制約がかなり緩和されたため、年度はまたぐが、当初予定通りの2ヵ年の使用計画を遂行する。
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