研究課題/領域番号 |
21K18775
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中谷 辰爾 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00382234)
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研究分担者 |
津江 光洋 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50227360)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 燃焼限界酸素濃度 / 固体プラスチック / 火災安全 / 有人宇宙活動 / 重力 / ベイズ統計モデル |
研究実績の概要 |
有人宇宙活動における固体プラスチック材料の火災安全性評価を目的とし,微小重力における固体材料の消炎限界酸素濃度が調べられており,流速がある程度あるところで消炎限界酸素濃度が最小となる.重力による流れ場により,消炎限界酸素濃度は大きく影響を受けるため,月および火星といった有人宇宙活動における固体材料の安全性を評価する上でその機構を明らかにする必要がある.本研究では重力レベルが限界酸素濃度に及ぼす影響を明らかにするため,遠心装置を用いた実験系によってPMMA材料を燃焼することで評価している.また,エネルギーバランスを考慮したスケールモデルに対し,ベイズ推定手法であるMCMC法により,モデルを評価することを行なっている.本年度は,流動のある遠心装置において無視することのできないコリオリ力の評価を行った.一定の重力条件において,遠心装置のアームの長さを410mmから1000mmと変化させて角速度を変化させることでコリオリ力の大きさを調整した.結果,コリオリ力がLOCに及ぼす効果は限定的であった.また,火炎の傾きを観察するために複数の光学窓を用いた燃焼計測を実施している. 一方で,一部の実験において結果の再現性に関して課題が示され,燃焼室を改良する必要が生じた.過去の研究で使用していた内部の配線やヒータにより流れが乱され,実験の再現性に影響する可能性が示唆された.そのため,燃焼器の再設計および製作を実施し,PIVをはじめとする燃焼室内流れの評価を実施した. モデルに関しては,重力によって誘起される速度項を入れてベイズ推定手法によりパラメータを推定した.予備計算により,通常重力において概ね文献値等で示される流速と同様の流速が得られており,新燃焼器を用いた測定結果と合わせて解析を行うことで,限界消炎酸素濃度予測のモデルの不確定性を明らかにし,評価精度を向上することができる可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PMMAなどの固体プラスチック材料の限界消炎酸素濃度に及ぼす重力の影響を評価するため,遠心装置を用いて実験を実施している.回転座標系においてはコリオリ力の影響を避けて通れず,遠心力と重力を考慮した加速度計においてどの程度影響するのかを評価する必要がある.本実験系では,コリオリ力の変化が容易な実験装置を開発することができ,課題であるその影響を早い段階で評価することができた.本年度までに,溶融燃料のドリッピング効果が無視できるキャスト型PMMAにおいて様々な重力レベルで多くの基礎的なデータが得られている.また,限界消炎酸素濃度の評価において,コリオリ力の影響が限定的である結果が得られており,今後の実験方針を明確にすることができている. また,実験装置の他の課題を反映し,実験装置の改良案を考え,すでに設計製作が終了している.流速測定をはじめとする基本データの取得もできており,今後,様々な重力条件において実験を実施する準備ができており,本試験にスムーズに移行することができる. エネルギーバランスを考慮したスケール解析モデルにおいて,ベイズ推定手法を応用した解析により,重力項の影響を求めることができ,他の実験的研究等で示されている値と同程度のオーダーの速度が得られている.ベイズ推定手法を用いているため,今後実験データの増大によりベイズ更新され,モデルの推定精度の向上が期待される. 上記の実験課題の解決により,今後再現性の高い有意義な実験データをパラメトリックに取得できると考えられる.また,それらのデータ量の増加によりパラメータ推定精度が上がり,消炎限界酸素濃度モデルに関する多くの知見を得ることが可能である.上記の観点から研究は順調に進捗していると評する.
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今後の研究の推進方策 |
本年度において,遠心装置と燃焼容器からなる実験装置の改良が行うことができた.次年度は新しい燃焼容器を使用して様々な重力レベルの条件において実験を実施する.まず,実験データの再現性を確認するため,キャスト型PMMAに対して旧装置と同様の条件で実験を実施する.コリオリ力が及ぼす効果に関しても確認する.データの再現性を確認した後,本年度実施した空気流速,酸素濃度および重力レベルを変化させてLOCを詳細に求め,実験データの再検証を行う. 計測においても,新たに高速度の撮影が可能なカラーおよびモノクロの小型カメラを設置することにより,コリオリ力の影響や火炎の伝播速度,火炎浮き上がり高さ等を詳細に検討することで,モデルについて考察を行う. 固体プラスチック材料に関しては,キャスト型PMMAに加え,押出型PMMAを用いた実験を実施する.押出型PMMAは溶融燃料成分がドリッピングするため,消炎限界酸素濃度がキャスト型PMMAと比較して大きく異なる可能性がある.これらの固体材料特性の違いにより重力が消炎限界酸素濃度に及ぼす影響を明確にする予定である.また,押出型PMMAおよびキャスト型PMMAの消炎限界酸素濃度は軌道上実験において検証される予定であり,それらと比較するための基礎データを取得する. 上記の計測結果を取得した後,エネルギーバランスを考慮したスケールモデルに対して,ベイズ推定手法の一つであるマルコフ連鎖モンテカルロ法を適用することで,モデルパラメータの推定に加え,現在のモデルによって得られる消炎限界酸素濃度モデルの信用区間を検証することでモデルの不確定性について評価を行う.溶融燃料の有無によりモデルの不確定性がどのように変化するかについて考察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は途中で実験装置の課題が発生したため,実験装置の改良に取り組んだ.そのため,多くのパラメトリックな実験を中断したのに加え,数値計算等の実施を遅らせている.それに必要なガスや試料をはじめとする消耗品,一部の計測装置や計算機の導入を新燃焼容器に合わせて遅らせており,本年度に再現性を確認したのち本試験を実施する.それに合わせて物品の購入を行う.
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