近年の発展途上国の地震災害では,鉄筋コンクリート造(RC)建物において基規準を満足しない配筋により大きな被害に繋がった事例が観察されている.基規準不適合な建物は発展途上国に膨大に潜在すると考えられるが,大地震が発生して初めてその氷山の一角が明らかになる.本研究の目的は,RC建物の最も深刻な基規準不適合の事例として鉄筋とコンクリートの一体性不足に着目し,『基規準は満足しているはず』という前提の下での地震被害想定の危うさを示すことである.本研究の萌芽性は,RC建物を対象とする従来の実験方法で得られている鉄筋とコンクリートの一体性の主指標(付着性能)に関する実験データの信頼性を改めて見直す点にある. 2022年度は,2021年度に計画,製作した発展途上国のRC建物の柱梁接合部を模擬する縮尺70%の模型試験体を対象に構造実験を実施した.試験体は梁主筋が接合部に適切に定着されていない(不十分な定着長さで直線定着されている)状態を模擬した.また,梁主筋の定着部のひずみをとくに光ファイバー式ひずみセンサ―により計測した.このセンサーは径0.2mm程度であり防水処理の必要もないため,鉄筋に極僅かな溝を設け,付着性能に影響することなく設置が可能であり,本研究の目的を合理的に達成できた.実験の結果,梁主筋の定着部の信頼性の高いひずみデータが得られ,すなわちコンクリートとの付着性能に関する高精度な実験データを取得することができた.この実験データより,梁主筋が適切に定着されていない(梁主筋が定着破壊する)接合部の耐震性能を明らかにした.
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