研究課題/領域番号 |
21K18798
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川野 潤 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40378550)
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研究分担者 |
豊福 高志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭技術開発プログラム), 主任研究員 (30371719)
北垣 亮馬 北海道大学, 工学研究院, 教授 (20456148)
川西 咲子 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80726985)
荒木 優希 金沢大学, 数物科学系, 助教 (50734480)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 可視化 / pH / 固液界面反応 |
研究実績の概要 |
本研究は、研究代表者が近年開発した、反応界面における局所的なpHおよびCaイオン濃度変化を蛍光プローブを用いて可視化する技術を、多様な材料に適用できるように高精度化・汎用化することを目的としている。2022年度においては、以下について研究を進め、成果を得ている。 [1]ゲル内二重拡散法によって合成される炭酸カルシウムについて、形成環境のpHの可視化に成功した。ゲル全体のpH変化を可視化した結果、多形によって形成環境のpHの変化の傾向が異なることが明らかになった。さらにレーザー共焦点顕微鏡を用いた詳細な観察により、カルサイト成長時の結晶近傍のpHに局所的な不均一が生じることを初めて確認した。しかし、アラゴナイト形成場の近傍にはこのような傾向は観察されず、このような形成場の局所的な環境の違いも多形形成に影響を与えている可能性が示唆された。 [2]従来までに観察可能であることが示されている炭酸カルシウム以外の材料についての適用を進めた。特に、リン酸カルシウム系の材料について、溶解時のpH変化およびCaイオン濃度分布の変化を可視化したところ、アパタイトやリン酸八カルシウムなど、物質によって異なる傾向を示すことが観察された。さらに、同じ物質であっても、Naが含有しているものは、含有していないものとは大きく異なるpH変化の傾向を示すことが明らかになった。このことは、生体材料としてリン酸カルシウムを用いたり、生体内でのリン酸カルシウムの形成過程を理解する際の指針となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究により、本課題で提案している蛍光プローブを用いたpHおよびイオン濃度の可視化手法は、(1)水溶液中での結晶の溶解過程、(2)ゲル媒体中における結晶の形成過程をはじめとして、さまざまな系の結晶界面反応のその場観察に適用可能であることが示された。対象とする物質も、炭酸カルシウム系化合物、リン酸カルシウム系化合物、ケイ酸カルシウム系化合物など幅広く、多形や組成、表面構造の違いによって、溶解時、形成時の結晶近傍のpH変化の傾向が大きくことなることが明らかになっている。当初、2年の計画であったが、このような想定していた以上の様々な現象についての整理・考察が必要になったことも踏まえて、研究期間を延長して実施することとした。 さらに、2022年度の計画どおり、従来用いていた一般の蛍光顕微鏡に加えて、レーザー共焦点顕微鏡を利用することより、さらに詳細な観察が可能であることを確認できている。現状、pHやカルシウムイオンを定量化して可視化するためには、異なる系ごとにキャリブレーションカーブを作成する必要があるため、ひとつの反応における微細な環境変化については敏感に検出可能である一方で、絶対的な定量化にやや課題が残る状況である。レーザー共焦点顕微鏡を用いた定量化は、この解決策のひとつとなる可能性がある。より精密な実験条件の検討を行って、汎用的なキャリブレーション手法を構築することにより、この手法の有用性を高めることができると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、蛍光プローブを用いたpHおよびイオン濃度の可視化手法の高精度化と汎用化を進めたことにより、さまざまな材料の多様な反応において本手法が適用可能であり、材料―水界面での反応解析において、新たな評価基準を提供しうることが示された。さらに従来の蛍光顕微鏡のみならず、共焦点レーザー顕微鏡を使用すれば、より詳細な観察も実現可能であることが確認されている。これまでの研究により、pHやイオン濃度の可視化についての手法構築は進んだが、試料の固定方法や溶液の注入方法など、それ以外の実験系の最適化も必要である。より汎用性を高めるため、研究期間を延長して下記に取り組む。 [1] 多様な観察試料を扱う場合、試料によって空隙が多く含まれていたり、もろく崩れやすい場合も存在するため、そのための試料固定方法などを検討する。さらに、溶液と接触した直後から、急激にpHやイオン濃度変化が確認される場合もあることから、その変化を捉えられるような実験セルの変更や溶液の注入方法を検討するなど、実験系の最適化を行う。 [2] 汎用的に適用可能な精密な定量化の方法を検討する。特に、レーザー共焦点顕微鏡を用いた場合の再現性の評価を行うことで、キャリブレーション手法を確立する。 [3] 上記を総合し、可視化された現象を理解して個々の材料を利用する際の新たな指針を示すため、得られたpHおよびイオン濃度変化分布変化のモデリングを行う。 以上により、本研究で提案する可視化技術を、多様な材料における固液界面反応の課題解決につながる新たな評価方法として確立することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の目的は、研究代表者が開発を進めてきた可視化技術を汎用化することにある。本研究により、本手法がさまざまな材料に適用可能であることが示されたが、それぞれの成果の公表がやや遅れている。そのため、それぞれの材料についての結果を整理するとともに、成果公表を行うための予算として確保している。
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