研究課題/領域番号 |
21K18801
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
和田山 智正 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (20184004)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 酸素還元反応 / 垂直磁気異方性 / 白金コバルト合金 / 表面歪 / 白金シェル / スピン触媒 |
研究実績の概要 |
本研究は、表面法線方向に揃った磁化(電子スピンの偏り)が常磁性酸素(O2)の表面反応にどのように影響するか実験的に検討し、新たな触媒反応場として提案することを目的としている。より具体的には、Pt単結晶表面に垂直磁気異方性(PMA)を付与(PMA_Pt)し、常磁性O2や解離O原子の表面触媒反応がどう変化するかを精討して、「スピン触媒分野」開拓へ向けた端緒とすることを最終目的とする。 目的達成のためには、PMAを発現するPt-Co表面合金系の構築が前提になるが、R3年度にその前提をクリアした。すなわち、超高真空環境下でPt(111)基板表面にCoを1原子層相当厚蒸着し、700℃程度で熱処理した。その結果、電子線回折や電気化学測定結果に基づいて、基板Pt原子がCo層上に表面偏析してPtスキン層/Co層からなる積層構造(Pt-Co(111)表面合金)が得られることを推定した。さらに、得られる表面構造が実際にPMAを示すことを表面磁気カー効果(SMOKE)測定から確認した。また、Ptスキン層に働く表面歪を面内X線回折測定から評価すると、Ptスキン層には圧縮方向の歪が働いていることがわかった。このようにして作製し、その物性を評価したPt-Co(111)表面合金についてORR活性を評価した。その結果、活性は対Pt(111)比で最大10倍程度増大することがわかった。またPtスキン層の圧縮歪とPMA、さらにORR活性との関係は、Pt-Co(111)表面合金構築時の熱処理温度に敏感であることが示唆された。今後、熱処理温度と表面構造、歪、PMA、およびORR活性の関係性について精査してゆく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、R3年度においてPt(111)基板上にCoを1原子層相当蒸着し超高真空中で熱処理を施すことにより、基板Pt原子の表面偏析を通じて、最表面が1原子層のPtスキン層、その下層にCoが濃縮した積層構造が構築できた。また、熱処理温度を変化させて最表面Ptスキン層と下層Co濃縮層の割合を変化させると、電気化学的に評価した酸素還元反応(ORR)活性も変化し、最適条件では清浄Pt表面に比較して約1桁ORR活性が向上することがわかった。その上で、得られたPtスキン層/Co層積層構造が実際に垂直磁気異方性を示すことを表面磁気カー効果測定から確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、R3年度Pt(111)上に真空構築したPtスキン層/Co層積層構造が垂直磁気異方性(PMA)を示すことが確認できたので、R4年度には熱処理温度とPMAの関係を精査した上で、Ptスキン層に働く表面歪を加味して、ORR活性増大率との関係を実験的に検討する。さらに、同条件でPMAを示さないことが報告されているPtスキン層/Ni層積層構造について、Ptスキン層の表面歪とORR活性増大率との関係を求めて、Pt-Co系と比較し、PMAがORR活性増大に及ぼす影響について明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
R3年度はコロナ禍ということもあり、世界的な半導体不足やPMAを示すPt-Co表面合金系の構築に必要な真空部品の入手がきわめて困難で、購入できても納期が半年以上のものが多く、約85万ほどR4年度に繰り越すこととした。R4年度は、とくに長納期が想定される真空関係の部品について、年度当初からの早期予算執行につとめる。
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