鉄鋼材料中で侵入型元素と置換型元素が局所的に濃化した溶質クラスタによる強化機構を解明するため、薄い希薄Fe-Ti板状試料を種々の温度に加熱したNH3+H2雰囲気中で焼鈍することで,試料中央まで均一に窒化した試料を作製した。その後,窒化温度よりも低温で水素焼鈍することでなるべくクラスター分布を変えずに固溶窒素を除去した.その結果,TiとNの原子濃度比率は窒化温度によらずほぼ1:1となったことから,水素焼鈍後の試料にはTi-Nクラスターのみが含まれ,固溶Nは除去できたものと考えられる.次に、水素焼鈍材の硬さを測定したところ,窒化温度が上昇するにつれて650℃までは硬さは増加するが,それ以上では軟化 することを見出した。 この試料の引張特性を明らかにするため、窒化材及び水素焼鈍材より引張試験片を切り出し、引張特性を評価した。その結果,窒化材では高温での処理材を除き弾性域破断するのに対して,水素焼鈍により固溶窒素を除去することで延性が回復し、降伏強度並びに引張強度を評価することができ、その温度依存性は硬さと同様の傾向を示すことを明確にした。 次に各試料におけるクラスターサイズと分布を透過型電子顕微鏡ならびに三次元アトムプローブを用いて定量評価した。その結果、650℃以下では一原子層のクラスターが支配的に生成し、高温ほどサイズが大きく、密度が高くなることが分かった。一方、窒化温度が700℃に上昇すると複数原子層厚さのTiNが生成し、密度は低下する。得られたクラスター・TiN分布からすべり面上の粒子間隔を評価して強化量を整理したところ、粒子抵抗力はOrowanモデルの予測を大きく下回ることから、Ti-Nクラスターはカッティング機構によって強化に寄与するものと考えられる。
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