研究課題/領域番号 |
21K18807
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川西 咲子 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80726985)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 炭化ケイ素 / その場観察 / エレクトロマイグレーション / 溶液成長 |
研究実績の概要 |
本研究では、溶液成長法による高品質なSiCのバルク単結晶の育成に向け、高温界面エレクトロマイグレーションによるステップバンチングの解消の可能性を調査する。 2021年度は、高温界面その場観察に利用する加熱系(熱電対および試料保持台)に改良を加え、昇温試験を実施した。その結果、本研究で想定する最高温度である2000℃までの加熱が可能であることを確認した。1700℃までの温度域ではSiC/溶融合金間界面の観察を達成したものの、それ以上の高温では加熱源からの光の影響により界面観察には至らなかった。 また、平衡状態におけるエレクトロマイグレーションの効果の検証に向け、SiC基板を溶融Si系合金と接触させ、平衡状態に至る過程の挙動を調査した。n型ドーパントである窒素濃度の異なる3種のSiC基板を用い、SiおよびCの各面極性での溶解挙動を調査したところ、殆どの条件において結晶中に内在する貫通転位を起点とした六角錐上の局所溶解を生じることがわかった。冷却後の結晶の評価により、Si面では貫通らせん転位および貫通刃状転位を起点とし、C面では貫通らせん転位のみを起点とし、それぞれ溶解ピットを形成していたことがわかった。この溶解ピットの三次元形状は炭素の未飽和度に応じて変化し、BCF理論に従った溶解であることを明らかにした。また、溶解が進行し、溶融合金が平衡状態に近づくにつれ、沿面方向への溶解が優先的に生じることを確認した。以上より、ステップ形状の形成過程に及ぼす因子を明確化し、平衡状態におけるステップ形状に及ぼす電流印加の効果の解明に向けた評価体制を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標とする2000℃での界面観察に向けては更なるシステム改良が必要な状態であるものの、その場観察法による平衡状態でのステップ形状の評価に向け、必要な実験および解析を進めている。その場観察を通じて使用するSiC結晶中の転位がステップ形状に及ぼす影響も明らかにしており、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
より高温での界面その場観察の実施に向け、フィルター、輻射光シールド、光源、カメラの検討を進めるほか、電流印加用の電極を追加し、界面エレクトロマイグレーションの評価に必要な装置を構築する。装置改良と並行して、使用するSiC基板に好適で高温でも使用可能な電極材の検討を進める。これらが完了した後、界面エレクトロマイグレーションの評価を開始する。その場観察を通じて、ステップへの溶質の取込量が電流密度やその印加方向に応じて変化する挙動を定量的に評価する。評価においては、温度、SiC基板のステップの傾斜方向および面極性の影響を明らかにする予定である。これらの調査においては、はじめに平衡状態でのステップ挙動を対象とし、静的な環境におけるステップ形状の変化を明らかにする。次いで、SiおよびCの供給下での動的な環境におけるステップ挙動への影響を調査する。これらを通じて界面エレクトロマイグレーションがステップの形状や溶質の取込量に与える影響を明らかにし、溶液成長時のバンチングの解消法への適用の可能性について提言する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に実施した加熱系の改良および実験においては、代表者の所有する装置および材料を用いた実施が可能であったため、経費は発生しなかった。また、当初予定していた学会発表のための旅費は、コロナ禍でオンライン参加であったため発生せず、学会参加費のみを支出した。論文投稿費用に関しても、エディターの判断により全額ディスカウントが適用され、経費が発生しなかった。実験を進める過程で得られた問題点より、更なるシステム改良に当初予想しなかった経費が発生することが判明したため、これらの未使用分は次年度使用予定として取り置いた。
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