研究課題/領域番号 |
21K18815
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
藪内 直明 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80529488)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 相変化 |
研究実績の概要 |
自動車の電動化と脱化石燃料への期待が世界中で高まっている。実際に 2021 年の一年間だけで世界中でリチウムイオン電池を動力源に用いる電気自動車が 650 万台以上販売され、今後もその市場の拡大が期待されている。電気自動車の活用による二酸化炭素排出削減には、再生可能エネルギーの活用も不可欠である。近年、急速に再生可能エネルギー源として太陽光発電の低コスト化も進んでおり、1 kWh あたり 10 円以下にまで下がっている。この価格は火力・原子力発電と比較しても競争力を有しており、自然エネルギーの活用は経済的に合理的な選択になりつつある。しかし、リチウムイオン電池の寿命はエネルギー密度に特化したスマートフォン用の電池で、わずか 2-3 年程度、寿命に特化した電気自動車用の電池でも、10年使うと特性が大きく劣化するのが現実であり、20 年以上の寿命を有するとされる太陽光発電パネルに比べて寿命がかなり短いといえる。従来のリチウムイオン電池では層状構造が用いれており、充電時の固体中からの完全脱離はホスト構造の崩壊につながる。そこで、本研究課題では強固な三次元骨格構造に着目し研究を進めた。その結果、岩塩型構造を有する材料において、イオン伝導の速度に問題はあるものの、ナノサイズ粒子を活用することで従来層状材料を超える可逆容量を得ながら、同時に三次元の安定な骨格に由来する等方的な応力の集中緩和により長寿命な材料となることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
蓄電池材料開発は現在、世界中で熾烈な開発競争が行われている。その中で、長寿命のリチウムイオン蓄電池への需要は非常に高まっている。従来はエネルギー密度が重視されていたが、電池の役割の向上と共に電池の高機能性化への期待は高まっている。 このような背景のもと、応募者の研究グループではこれまでに、固体中のLi含有量を過剰にし、多電子固相酸化還元反応に立脚した高電荷密度蓄積を実現する新規インサーション材料の開発を行ってきた。その中でNb-Mo 系材料において、Mo の三電子レドックス反応が進行することで従来材料と比較して大きな充放電容量が得られることを報告している。しかし、当該材料の解析を進める上で、イオン半径の変化からの予測に反して、格子体積変化がかなり少ないという実験的な結果が得られていた。同様に、V 系二電子酸化還元反応が進行する Nb-V 系材料においても、Mo 系材料と同様に同様に格子の収縮が比較的少ない材料であることが確認されていた。これらの萌芽的実験結果を元に、さらに、材料探索を進めた結果、V系材料において、Li 脱離・挿入に伴う、格子体積の変化を生じない材料の合成に実際に成功し、特性が劣化しない高耐久性材料となることをこれまでに明らかにしている。現在、これらの研究成果は高インパクトファクターの材料科学分野のトップジャーナルで査読が進んでおり、当初の想定以上の成果が得られたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
リチウムイオン電池の寿命はエネルギー密度を重視するスマートフォン用途で 2-3 年程度、寿命に特化した電気自動車用の電池でも、10 年使うと特性が大きく劣化するのが現実であり、太陽光発電パネルに比べて寿命がかなり短い。リチウムイオン電池のこのような寿命の短さの一因となっているのが、太陽光発電パネルは発電中に電子と正孔のみが移動する固体デバイスであるのに対し、リチウムイオン電池で利用されているインサーション材料は、電子に加えてイオンが移動する混合伝導体を利用しているためといえる。固体中からの有限の大きさを持ったイオンの脱離・挿入には必然的に格子体積の変化 (大きい場合で10%程度の膨張収縮) を生じることになり、このような体積変化を繰り返すことで、セラミックス材料として脆性破壊を生じ、電極界面の喪失、粒子の孤立化 (微粉化)、さらに、破壊により生じた新生面で電解液が分解するといった、様々な事象を生じるため、従来の層状構造を基本としたインサーション型電池材料を利用していては、長寿命な電池実現は本質的に不可能であるといえる。そこで、従来材料とは異なる、強固な三次元骨格を有する材料開発を推進し、Li脱離時における等方的な応力の集中緩和を避け、従来材料と比較して、容量を向上させつつ、長寿命化を実現する材料を開発する。これまでに、実際に優れた材料が得られていることから、今後はこれまでの研究をさらに進展させることに注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は生じているが、25200円と少額であるので、基本的には予定通り執行したといえると考えている。
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