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2021 年度 実施状況報告書

ポリマーブレンド構成成分の無染色三次元イメージング技術の開発

研究課題

研究課題/領域番号 21K18816
研究機関名古屋大学

研究代表者

武藤 俊介  名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (20209985)

研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2023-03-31
キーワードポリマー合金 / 走査透過電子顕微 / 電子エネルギー損失分光 / 次元削減
研究実績の概要

本研究は走査透過電子顕微鏡(STEM)付随の電子エネルギー損失分光(EELS)によるスペクトラムイメージデータに次元削減を適用してポリマー特有の化学種を分離・可視化する新規手法の開発を企図している。本年度はゴム材料として典型的な水添スチレン系エラストマー(SE)、低密度ポリエチレン (LDPE)、およびエステル系熱可塑性ポリウレタン (TPU)の三種類のポリマーを混錬したポリマーブレンドをテスト試料として使用した。
電子線による照射損傷の効果を低減するため、スペクトル強度の強い低エネルギー損失領域(Low-loss)を利用することで従来内殻電子励起スペクトル利用に比べ1,000分の一の露光時間でデータ収集することができる。更に電子照射損傷の起源を明らかにするため、用いる電子顕微鏡の加速電圧を200kVと1000kVの二つを使用し、かつ試料自体を室温及び100Kまで冷却することによる違いも調べた。
三つの各ポリマー種の化学結合の違いとして、C=C二重結合、C=O結合、及びベンゼン環の有無が存在するが、それぞれエネルギー損失5-10eV領域に異なるピークエネルギーとして現れ、また各ポリマーの密度の違いが20eV付近に現れる体積プラズモンピーク位置として検出される。これらの違いにより、STEM-EELSスペクトラムイメージデータを分離することができ、ポリマー種の空間分布をナノメートル分解能で可視化することに成功した。
また更に加速電圧、試料温度効果により、低加速電圧、室温条件が最も損傷が激しく、主として温度上昇による熱だーめーじであることがわかった。加速電圧が1000kVでは室温・低温ともにある程度の損傷が見られるが、主としてC=C二重結合とベンゼン環の損傷であり、ポリマー種分布の可視化には影響が無いことがわかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

特に厚い試料を透過観察及び分光測定のできる超高圧走査透過電子顕微鏡によるスペクトラムイメージ法と先端的画像処理法を組み合わせることによって,厚い試料のポリマーブレンドを構成する混合成分の無染色でのナノメートル分解能イメージングが可能であることを示すことができた.またLow-loss領域の強く重なり合うスペクトルを正しく分解することは,従来の手法の持つ欠点であったが、次元削減によるスペクトル分解法の中でも対数尤度最大化というテクニックを利用することで克服できることがわかった。現時点では比較的化学結合種の違いが捉えやすいポリマーブレンドに対してのみの成功事例に留まっている。また今後電子照射損傷を定量的に評価するために、ファラデーカップの導入を予定しているが、コロナ禍と半導体不足のために導入が遅れている点が懸念される。

今後の研究の推進方策

研究計画の変更などは特にない。今後はなるべく多数のポリマー種の混錬試料に対して本手法を適用し、Low-loss領域の各ポリマーに対するスペクトルデータベースを作成することを目指している。ここでは機械学習の手法を適用して、化学結合ごとに現れる低エネルギー側の特徴的なピーク位置、半値幅を抽出、分類することを提案している。すでにプログラムコードを分析機器の制御PCに移植し、データ取得と解析を即座に行えるようなシステムを構築中である。
もう一つの大きな課題は、ポリマー分布の三次元可視化(立体化)である。ここでは最低同じ場所を二回走査してデータ取得することが必要なため、電子ビーム照射損傷のさらなる低減を図る必要がある。このためには電子ビームの電流密度、プローブ径、走査ステップ幅などの最適化が要求される。

次年度使用額が生じた理由

本研究のために、卓上走査電子顕微鏡(SEM)に光ファイバー導入機構を設置し、カソードルミネッセンススペクトルの取得ができるよう改造する部品を発注したが、コロナ禍のために部品調達が遅れ、年度をまたいで導入される見込みとなったため、前年度使用予定の予算の一部を今年度に持ち越した。5月中には当該光ファイバー導入機構が納入される見込みとの連絡を制作会社から受けており、当該繰り越し予算を執行する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] 次元削減法とそのスペクトル解析への応用2021

    • 著者名/発表者名
      武藤俊介, 志賀元紀
    • 雑誌名

      ふぇらむ

      巻: 26 ページ: 32-40

    • 査読あり
  • [学会発表] 計測インフォマティクスの誘惑とその功罪・私的展望2022

    • 著者名/発表者名
      武藤俊介
    • 学会等名
      CREST-さきがけ複合領域「情報計測」令和3年度 材料分野における情報計測クラスタ会議
    • 招待講演
  • [学会発表] Statistical Machine Learning approaches for Noisy Spectral Imaging Data2021

    • 著者名/発表者名
      M. Shiga, S. Muto
    • 学会等名
      The 9th International Symposium on Surface Science
    • 国際学会
  • [学会発表] ポリマーブレンドのナノスケール化学イメージング2021

    • 著者名/発表者名
      武藤俊介, 梅本大樹, 荒井重勇, 菊間淳, 乙部博英
    • 学会等名
      第70回高分子討論会
    • 招待講演
  • [学会発表] 超高圧STEM-EELS―HSI法によるポリマーブレンドの無染色化学イメージング2021

    • 著者名/発表者名
      武藤俊介, 梅本大樹, 荒井重勇, 宮本正悟, 菊間淳, 乙部博英
    • 学会等名
      日本顕微鏡学会第77回学術講演会

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公開日: 2022-12-28  

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