人工骨や人工歯根のような生体代替材料開発において、リン酸カルシウム結晶と有機材料との複合化による材料機能開拓が目指されている。そこでは、リン酸カルシウム結晶と有機分子が形成する界面の安定性やその起源となる界面相互作用様式が、重要な材料設計指針となる。しかしこれに関する電子・原子レベルからの知見はほとんどない。そこで本研究では、ジカルボン酸分子で修飾したリン酸八カルシウム(OCP)結晶に着目し、第一原理計算によりその熱力学的安定性を解明することを目的とした。 本年度は、前年度研究で検討してきたスーパーセルを用い、機械学習的手法であるベイズ最適化を第一原理計算と連携させ、コハク酸分子を含有するOCP結晶の最安定構造探索を行った。ベイズ最適化の適用により、極めて自由度の大きいコハク酸配置の中から最安定となる構造を見出すことに成功した。しかし、計算から得られた結晶格子定数は、水溶液合成されたコハク酸含有OCP結晶の実験結果を大幅に過小評価する結果となった。一方、別の先行研究で実験報告されている、脱水したコハク酸含有OCP結晶の格子定数と計算結果が良い一致を示すことが判明した。これは、コハク酸を含む構造の安定性に、水溶媒が重要な役割を担っていることを示唆している。そこで、水分子を導入したコハク酸含有OCP結晶の構造最適化も行ったところ、実験結果と良い一致を得ることができた。また、コハク酸の最安定構造は、コハク酸末端のカルボキシル基とOCP結晶のCaイオンとの結合数がより多い構造であることが判明した。さらに形成エネルギー評価も行い、コハク酸修飾は、従来推察されていた自発的なインターカレーション反応ではないことを示唆する結果を得た。
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