研究課題/領域番号 |
21K18825
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
乾 晴行 京都大学, 工学研究科, 教授 (30213135)
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研究分担者 |
岸田 恭輔 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20354178)
陳 正昊 京都大学, 工学研究科, 助教 (20889109)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 高次規則構造 / 結晶構造 / 部分占有 / 構造物性 / 溶融アルミめっき鋼板 / 相変態 / 電子顕微鏡法 / X線回折 |
研究実績の概要 |
溶融アルミメッキ鋼板の防食性金属間化合物コーティング層の主構成相で工業的に大変重要であるAl5Fe2相で最近,これまで信じられていた斜方晶系結晶構造に加えて高次規則相が多数出現することを発見した.Al5Fe2相でこれまで信じられていた斜方晶系結晶構造では,Al2Fe組成に対応した「骨格構造」とc軸方向にAl原子のみの部分占有が許されるAl2サイト,Al3サイトが6個連続した「部分占有Alサイトチェーン」からなるとされるが,一連の「高次規則相」は,Al5Fe2相の固溶範囲内では化合物の密度は大きく変化しないという我々の最近の知見をともに考慮すると,(i) 「部分占有Alサイトチェーン」はAl原子のみではなく組成(および温度)に応じてAlおよびFe原子がある割合で部分占有する,(ii) 組成(および温度)に応じて部分占有したAlおよびFe原子がc軸チェーンサイト内で高次に規則配列することを示している.すなわち,この高次規則構造は,c軸チェーンサイト内でのAlおよびFe部分占有原子の高次規則配列によるものであり,この高次規則配列がどのように決定されるのか?その規則配列によってどのように物性が変化するのか?解明が待たれる.高次規則構造の制御により,これまでAl5Fe2相金属間化合物では知られていない新規な物性の発現や既知の物性・特性の改善の可能性に繋がり,我が国発の独自技術である溶融アルミメッキ鋼板に応用できる技術に直結する成果が上げられる可能性が高い.これらは既報のない非常に稀有な例であり,高次規則構造の構造物性について予測性を持った系統的理解の確立を本研究の目的としている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,種々の組成を有するAl5Fe2金属間化合物を作製し,現れる高次規則構造を精密構造解析し,部分占有構成元素の高次規則配列構造を同定するとともに,高次規則構造ごとに安定して存在する組成および温度範囲を同定し,平衡状態図を決定した.対象とした高次規則相はη',η'',η''',ηMの4相であり,透過電子顕微鏡,X線回折法以外に示差熱分析も併用し,相平衡の決定を行った.その結果,η''相は最もAl-poor側で415℃以下で,η'''相は最もAl-rich側で405℃以下で存在すること,更に温度を低下させるとηM相がη''相から,また,η'相がη’’’相から包析反応により晶出する事が明らかとなった.これまでの報告とは全く異なり,η相331℃以下では全く存在しない事が解明された.η''相,η'''相の固溶領域は温度低下とともに減少し,室温近傍では0.2~0.3at.%Al程度の小さな固溶領域しか持たない.η'相の固溶領域は,温度低下とともに増大するが,室温近傍でも0.2at.%Al程度と小さい.一方,ηM相の固溶領域は,温度低下とともに増大し,室温近傍では0.8~1.0at.%Al程度と最も大きくなる.室温近傍では,4つの高次規則相には規則ドメインが方位バリアントとして形成されている.方位バリアントの数は,η',η'',η''',ηMの4相でそれぞれ,4, 2, 2, 4である.これは固相変態中に失った結晶対称要素の数を種類を示唆しており,次年度の高次規則構造を精密構造解析で有効に活用する.
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今後の研究の推進方策 |
これまでにη'相およびη''相について精密構造解析を終えているので,η'''相およびηM相について原子分解能での走査電子顕微鏡観察と放射光X線回折を組み合わせた精密構造解析を,上記の方位バリアントに関する情報も生かして続行,完結を目指す,η'''相ではη''相と同様に斜方晶[010]方向に構造変調および濃度変調が重畳して表れるため,モチーフ構造およびその境界変調構造の解明に重点を置いて解析を進める.一方,ηM相では構造変調および濃度変調が斜方晶[010]方向のみならず,もう一方向に生じる事が解明できており,同様の戦略で構造解析を進めるが,多重方行での構造変調および濃度変調により,構造解析が少し困難になる事が予想されるが,原子分解能走査電子顕微鏡観察と放射光X線回折を組み合わせにより解決できると考えている. また,Al5Fe2相の最も重要な工業応用は溶融アルミメッキ鋼板のめっき層であり,鋼板の成形時にジョウジに変形を受けるため,力学特性の解明が重要である.そのため,4つの高次規則構造相の単相試料を用いて,すべり系およびその臨界分解せん断応力(CRSS)を測定する予定である.これまでの経験から単結晶試料の作製は困難であるので,ミクロンメーターサイズの微小試験片をFIBにより作製し,同一サイズの試験片を用いてマイクロピラー試験で測定を行う.高次規則配列とすべり系およびそのCRSSの構造物性の確立を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の収束が遅れており,旅費,人件費,謝金を中心に計画通りの支出ができなかったため,次年度使用とすることとした.今年度もコロナ禍の収束がなるか予測できないため,年度初期には物品費を中心に支出を進める計画である.
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