昨年度研究開始当初に、この研究の要となるフラッシュランプアニール装置が故障した。海外のメーカー製であり、コロナ禍のため技術者が来日できず、対応に苦慮した。今年度(最終年度)に修理が完了して再起動することができ、磁気トンネル接合(MTJ)の、熱処理前後の既存試料の微細組織構造や元素分布、アニール過程の観察を、大阪大学超高圧電子顕微鏡センター(阪大電顕センター)にて行った。また、観測用磁気トンネル接合の試料作製や、通常の熱処理炉での条件出しなどを行った。 昨年度は、阪大電顕センターにて、元素分布、つまり特定の元素の拡散の様子の違いを確認できる準備を整えた。具体的には、試料準備の方法、装置の使用方法などを習得する作業を行った。その後、通常の熱処理炉で450℃でアニールを行った試料と、フラッシュランプアニール装置を用いていくつかのコンディションで瞬間アニールした既存試料の、双方の透過型電子顕微鏡像、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)ラインプロファイルを観察し、結晶化の様子や、元素部分布の違いを観察した。CoFeB/MgO系MTJのBの拡散の様子、下地層やキャップ層元素の拡散の様子などを観察したところ、通常の熱処理炉でアニールした試料では、B(ボロン)が 下地層に多く含まれていることなど、特徴的な様子を観測することができた。今年度にはフラッシュランプアニール装置でアニールした試料の電顕観察とEDXの計測を進め、通常の熱処理炉とフラッシュランプアニールした資料ではBの拡散に違いがあることが明らかとなった。また、CoFeBやMgOの結晶化の様子と、照射時間の関係などの詳細なデータを得ることに成功した。
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