研究課題/領域番号 |
21K18829
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野 博昭 九州大学, 工学研究院, 教授 (70325504)
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研究分担者 |
谷ノ内 勇樹 九州大学, 工学研究院, 准教授 (40644521)
大上 悟 九州大学, 工学研究院, 助教 (90264085)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 不動態 / スライム / 銅 / アノード / 電解 / 不純物 / 添加剤 / 拡散係数 |
研究実績の概要 |
純度78.7 mass%の低品位Cuをアノードに用いて,Cu電解を行ない,不動態化挙動に及ぼす電解液中の不純物イオン,添加剤の影響を調査した結果,以下のことが明らかとなった。不動態化までの時間は,不純物としてNi2+イオンを0.596 mol・dm-3添加した溶液では,かなり短くなり,As5+(0.004 mol・dm-3), Bi3+(0.0005 mol・dm-3)イオンを添加した溶液でも,短くなった。Sn2+(0.0004 mol・dm-3),As3+(0.053 mol・dm-3)イオンを添加した溶液では,若干短くなったが,Sb3+イオンを0.004 mol・dm-3添加した溶液では,不純物イオンを含まない溶液からとほぼ同一であった。Ni2+イオンを0.596 mol・dm-3添加すると溶液の粘度が高くなり,Cu2+イオンの拡散係数が低下することが分かった。As5+(0.053 mol・dm-3 )またはBi3+(0.0005 mol・dm-3)イオンが存在すると,アノードスライム中にAs-Sb-O系あるいはAs-Bi-O系の化合物が形成されており,スライムの緻密性を増加させると推察される。チオ尿素は,無添加の場合,不動態化までの時間が若干,長くなったが,添加濃度を 0.525 mmol・dm-3 から2.24 mmol・dm-3へと増加させると不動態化が促進された。Cl-イオンは,0-1.13 mmol・dm-3の濃度範囲では,不動態化時間は,一定であったが, 1.13 mmol・dm-3を超えると濃度の増加に伴い,著しく減少し,不動態化が促進された。Cl-イオンは,スライムの上層部にCuClを形成させており,スライムの緻密性を高くして不動態化を促進していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
純度99 mass%以上の粗Cuを用いた通常の電解精製におけるアノードの不動態化挙動については,アノード中の不純物,アノードの組織,電解因子,電解液中の不純物イオン,添加剤等の影響について従来より多くの研究が行われている。しかし,純度80-95 mass%の低品位Cuをアノードに用いた場合のその不動態化挙動については,ほとんど報告されていない。アノードに低品位Cuを用いる新規の電解精製を実現するためには,アノードの不動態化と電解条件の関係を把握する必要がある。本研究では,純度80 mass%以下の低品位Cuを用いて,電解実験を行ない,不動態化挙動に及ぼす電解液中の不純物イオン,添加剤の影響を調査して,本研究の低品位Cuと純度99 mass%以上の従来の粗Cuの不動態化に及ぼす浴中の不純物イオンと添加剤の影響の相違を明らかにすることができた。また,溶液中の不純物イオン,添加剤が低品位Cuの不動態化に影響を及ぼす理由について解明できた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)電解時のアノードのIn-situ解析 解析視野が広く,且つ,表面粗度の粗い銅アノードにおいてもIn-situ解析が可能となる電解装置を自作する。長焦点レンズを備えたハイスピードカメラを用い,また,電解液が着色しているためその吸収スペクトルを考慮して,液中を透過できるように光源には波長460-490nmの青色LEDを用いる。電解セル中のカソードはPtワイヤーとし,電解液を流しながら電解時の電流,電圧をモニタリングしアノード表面を観察し,不動態化時の銅の溶解挙動を解析する。不動態化を引き起こすスライムおよびCuSO4膜の形成挙動を解明する。 (2) 粒子イメージ流速計測法(PIV)による電解液流動の可視化解析 電解液流動の可視化装置を自作する。PIV試験では,光源に硫酸銅溶液において透過率の高い波長域の青色LED(470nm±5nm) のアレイを使用する。LEDの光をシリンドリカルレンズで集光し, アノードにスリット(約0.3mm)を入れ,ビームシートを形成する。反射したトレーサー粒子(ポリメタクリル酸メチル)をスピードカメラにより撮影する。コンピュータソフトにより,トレーサー粒子の速度を決定し,液流動を可視化解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
低品位銅の不動態化挙動を解明するためには,アノード銅断面の解析が必要不可欠となる。その断面解析のために2021年度に購入したSEMに付けるEDS装置を購入するために次年度使用額が生じた。
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