研究課題
触媒反応を行うタンパク質(酵素)は、生命現象の維持に必要なだけでなく、有用物質の工業生産にも必要であり、産業や医療などの幅広い分野に応用されている。それゆえ、酵素活性を向上させる方法の開発は、産業や医療などにおいて極めて重要である。従来は、大量の酵素変異体の中から高活性化した変異体をスクリーニングする進化分子工学的実験によって高活性化が試みられてきた。しかし、このような経験的設計法では大量の実験が必要であり、また、高活性化できる見通しも悪い。そこで、このような状況を打破するために、本研究では酵素活性を合理的に向上させるための普遍的な手法の開発を目的とする。そのために、我々が提唱する酵素の合理的高活性化法の妥当性と普遍性を検証する。2021年度は次の研究を行った。(1)妥当性の検証に向けて: モデル酵素であるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)に対して多重アミノ酸置換変異を理論的に導入し、我々が提唱する方法により、高活性化すると期待されるDHFR多重変異体を合理的に設計した。(2)普遍性の検証に向けて: DHFR以外の酵素に対して、網羅的な1アミノ酸置換変異を理論的に導入し、我々が提唱する方法により、高活性化すると期待される変異体を多数、合理的に設計した。それらの一部について酵素活性の測定を行った。以上の研究と並行して、NMR分光法などを用いてタンパク質の立体構造解析を行った。また、タンパク質間相互作用を強化する変異体を理論的に設計する方法の開発を行った。さらに、タンパク質の構造ダイナミクスを理論的に予測する手法の開発を進めた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、酵素活性を合理的に向上させる普遍的な手法の開発を目指して、その手法の妥当性の検証と普遍性の検証という2つの研究に取り組んでいる。いずれの研究においても着実な進展がみられており、おおむね順調に進展していると判断される。
今後も当初の予定通りに研究を進めていく予定である。具体的には、次の研究を行う。・妥当性の検証のために、理論的に設計した変異体を実際に作製し、酵素活性が向上しているかどうかを確認する。また、高活性化した変異体について、生成物解離速度などの反応ステップが高速化しているかどうかを確認する。・さらに、普遍性の検証のために、DHFR以外の酵素に対して理論的に設計した変異体を実際に作製し、酵素活性が向上しているかどうかを調べる。必要に応じて、理論的設計法の最適化を行う。
2021年度は主に理論的な研究(酵素変異体の合理的設計)を中心に行った。これらの変異体についての実験を2022年度にも引き続き行う予定であり、その際に試薬類やプラスチック器具などの物品を購入するために次年度使用額を使用する予定である。また、2022年度分として請求した助成金については、当初の計画通りの研究を実施するために使用する。
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https://folding.c.u-tokyo.ac.jp/