研究課題
本研究では、化合物分子の凝集が引き起こす全く新しい酵素阻害機構の解明に挑戦した。従来の阻害剤は、阻害剤1分子がタンパク質1分子と相互作用し、阻害効果を発揮していた。本研究で明らかにする酵素阻害機構は、1分子では特段の機能を持たない低分子化合物が分子レベルで凝集し、この凝集体が核酸分解酵素(DNase)に対して阻害活性を示すという全く新しいものである。我々は、ある多環式低分子化合物(化合物1)がその溶解度を超えて不溶になり始めると、DNA分解酵素に対する阻害活性を示すことを発見した。この化合物1の凝集物に対する、DNA分解酵素の吸着も共焦点レーザー顕微鏡に観察された。マグネシウム等の2価金属イオンを添加してもDNA分解酵素に対する阻害活性は変わらなかったことから、この阻害が金属キレートではないことが判明した。またDNA2本鎖の融解に対する化合物1の影響もなかったことから、DNAに対するインターカレートが阻害の原因でないことも判明した。化合物1が凝集する化合物1高濃度条件下において、βシクロデキストリンを添加し、強制的に化合物1の可溶化をおこなったところ、DNA分解酵素の活性が回復した。このことも化合物1の分子凝集が阻害に重要であることを示している。化合物1に類似の構造を有する多環式低分子化合物を5種ほど検討し、どの化合物においてもやはり溶解度を超えて、凝集物が生じるとDNA分解酵素に対する阻害活性を示すことが明らかになった。我々は本研究を通して、1分子では特段の機能を持たない低分子化合物が凝集することで酵素阻害機能を発揮することを明らかにした。他方この化合物1は一定濃度以上で、筋基底膜糖鎖欠損(福山型筋ジストロフィー疾患主因)を回復可能であることがわかっており、分子凝集が引き起こす酵素阻害がこの疾患の治療薬になる可能性が示唆された。
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