研究課題/領域番号 |
21K18857
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
岡島 元 中央大学, 理工学部, 准教授 (20582654)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | ラマン分光 / マイクロ反応 / ラマン温度 / in situ / イメージング |
研究実績の概要 |
本研究では微小空間の温度と分子構造とを同時かつ複合的に測る新規分光イメージングを構築する。当該年度は、この研究に必要な装置の構築と整備を行い、微小反応デバイス内の反応進行とそれに伴う局所温度上昇とを同時追跡し、本手法の有用性を調べた。 まず、現有の装置を改良することで、(温度の情報を含む)ストークス・アンチストークスラマン散乱強度比と、(分子の種類や構造・量の指標となる)ラマンスペクトルとを一括して定量分析できる装置を、マイクロ反応追跡に応用できるよう整備した。その後、単純な2溶媒混合による発熱反応を調べ、2液合流直後サブ秒での反応生成とその局所温度を分析する「ラマン温度・分子イメージング」を行なった。その結果、反応界面での生成物の局在と、その近傍のみの温度上昇(hot spot)を観測することができた。 イミダゾリウム系イオン液体のひとつである1-Ethyl-3-methylimidazolium ethylsulfateの2液混合による合成反応は、マクロスケールでは100 °C以上の急速温度上昇を引き起こす反応である。当該年度の研究では、Y字型マイクロ流路を用いて、反応物が合流した直後サブ秒の分子分布・温度分布を可視化した。その結果、2液の合流界面に生成物が局在している様子や、その温度が他と比べて15 ℃程高くなること、すなわち生成物の局所温度上昇(hot spot)が生じることを確認した。 この結果は、これまで実験的観測が困難であった、反応場の分子変換と発熱をその場(in situ)追跡するという点で画期的である。今後は、この結果と数値シミュレーション予測との比較から本研究での新規分光イメージングの有効性を評価し、液滴混合による微小反応過程の追跡などからその有用性を確認する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に記載した通り、新規手法を用いてマイクロデバイス内の複合分析を行い、微小領域の物質と熱の局在を調べることができた。除熱効果の高いと考えられているマイクロ流路内の発熱を観測できたことは、当初の想定以上の進展であった。一方で、当初計画していた液滴型のマイクロ反応デバイスについては、適切な装置の導入・調整が遅れており、それを用いた研究を進めることができなかった。また、本実験結果を裏付けする数値シミュレーションの実施も行えていない。 このような状況を総合的に見て、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究で明らかにした局所発熱(hot spot)の由来を明らかにすることと、それによる分子変換の効率・変性・劣化を分析することを軸に研究を進める。前者については、数値シミュレーションを行い、実験と数値予測との比較から、局所発熱が生じる妥当なモデルを構築する。後者については、生成物のラマンスペクトルの解析やその他の分光分析によって、局所発熱が生成物にどのような影響を与えるかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、装置開発(数値シミュレーション環境の構築や液滴反応流路の製作)のために多くの予算を計上していた。しかし実際には、現有の装置・機器類で行える実験を進めることを優先して進めた。(研究成果として記述した通り)反応による局所温度上昇という注目すべき結果が得られ、その解析に時間を費やしたためである。そのため、先送りとした装置開発に関しては次年度に実施することとし、数値シミュレーション環境の構築や液滴反応流路の製作に次年度使用額をあてる計画とした。
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