研究課題/領域番号 |
21K18862
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西原 洋知 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (80400430)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 吸着 / ヒートポンプ / グラフェン / 多孔体 |
研究実績の概要 |
本研究の主たる目的は、応力によりスポンジのように柔軟に変形するナノ多孔体を利用し、応力印加により細孔径を微小化させ、水蒸気の吸着を誘起することである。この目的を達成するためには、疎水性のカーボン多孔体の細孔径を2 nm付近に調節する必要がある。疎水性のカーボン多孔体は細孔径が2 nm以上と大きい場合には低圧で水蒸気を殆ど吸着しないが、応力を印加して細孔径を2 nm以下の領域にまで微小化すると、細孔内部の物理吸着ポテンシャルが深くなり水蒸気吸着が生じると期待される。 我々のグループでは、鋳型法を用いて細孔径が5~8 nmのカーボン多孔体「カーボンメソスポンジ(CMS)」とこれを1800℃でn熱処理した「グラフェンメソスポンジ(GMS)」を開発している。CMSは細孔壁がグラフェン約1層から成り、グラフェン周囲のエッジサイトは水素や含酸素官能基で終端された構造を持つ。これを1800℃で熱処理するとグラフェン境界のジッピング反応によりエッジサイトが消滅するが、元の細孔構造は殆ど変化しない形でGMSが得られる。すなわし、CMSとGMSは同一の細孔構造をもちつつも、エッジサイトがある・無いという違いを持ったユニークな材料である。本年度は、CMS、GMSの基本的な水蒸気吸着特性を把握するため、種々の温度における吸着等温線の測定を行い、アルコールや他の有機蒸気の吸着挙動との比較を行った。また、狙いとしている細孔径と柔軟性を達成するため、カーボン材料の微細構造と柔軟性を系統的に調べ、カーボンの構造因子で多孔体の体積弾性率を予想する経験式を導出できた。さらに得られた知見に基づき、CMSをホットプレスすることで、柔軟性を維持しつつ細孔径を微小化する検討も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鋳型法を用いて合成されるメソ多孔体「カーボンメソスポンジ(CMS)」とこれを1800℃で熱処理して得られる「グラフェンメソスポンジ(GMS)」について、基本的な水蒸気吸着の挙動を検討した。カーボンは疎水性であるが、ミクロ孔には水蒸気を吸着することができる。したがって、一般のカーボン多孔体においては、-196℃で測定した窒素吸着等温線にDubbinin-Radushkevich法を用いて計算されるミクロ孔容積の値と、25℃における水蒸気吸着の値がほぼ一致する。ところが、CMSとGMSは、0.7 cm3/g程度と比較的大きいミクロ孔容積を示したにもかかわらず、25℃での水蒸気吸着量は0.1 cm3/g程度と非常に小さいことが判明した。単層グラフェンを細孔壁とするメソ多孔体の場合、Dubbinin-Radushkevich法ではミクロ孔容積が正確に評価できないことが判明した。また、CMSもGMSもミクロ孔を殆ど持っておらず疎水的な挙動を示したため、これらの材料で細孔径を2 nm付近まで微小化できれば、本研究の目的が叶うことが示唆された。 次に、目的とする材料を調製するため、様々なカーボン多孔体のグラフェンの形状や性質などが、材料の柔軟性に及ぼす影響を系統的に調べた。その結果、カーボン材料の微細構造を表す複数のパラメータを利用して、材料の柔軟性を予想できる経験式を導出することができた。得られた知見に基づき、CMSをホットプレスすることで、細孔径の微小化を検討した。その結果、細孔径3 nm程度まではグラフェンの微細構造を大きく損なうことなく微小化が可能であり、なおかつ細孔径微小化後の材料も十分な柔軟性を維持していることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、鋳型法を用いて合成されるメソ多孔体「カーボンメソスポンジ(CMS)」とこれを1800℃で熱処理して得られる「グラフェンメソスポンジ(GMS)」について、基礎的な水蒸気吸着挙動を確認し、カーボン材料一般に通用する構造と柔軟性との関係を明らかにし、さらにCMSをホットプレスすることで柔軟性をある程度維持したまま細孔径を微小化できることを見出した。 そこで2022年度は細孔径を微小化したCMSを利用し、応力印加による吸着の発現を検討する。水蒸気の吸着量を調節するため、材料のエッジサイトの量、細孔径、官能基の導入などに関する検討を行う。また、2021年度の成果としてカーボン材料一般に通用する構造と柔軟性との関係が明らかになったことで、革新的な柔軟カーボン多孔体調製の発想が新たに生まれた。これらの知見を利用すれば、大気中に存在する気体を柔軟カーボン多孔体を利用して液化回収する技術や、大気中のCO2を濃縮する技術の開発に繋がると期待される。そこで、柔軟カーボン多孔体を利用した革新吸着技術として、これらの基礎的検討も行う。
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