研究実績の概要 |
昨年度まで、ナノ流路中の気液相転移を利用したナノバブル発生および流れの開閉について原理を検証して、400kPa程度の耐圧、数10msレベルの高速応答性を確認した。これはまさにナノ流路では液体の印加圧力が高く、また体積がフェムトリットルレベルであるために、バブルの生成と消滅を迅速にコントロールできることの結果である。しかし、この原理のマイクロ領域への適用可能性については、検証できていなかった。そこで、バブルの生成と液体流れを明視野観察により観察するための照射系を改善して、マイクロ流路でのバブル生成と消滅を観測した。その結果、マイクロ領域でもバブルを生成して液体流れを止めることはできるが、気体の溶解を利用したバブルの除去には20分以上を要し、本原理をマイクロ流路領域に適用することは困難であることがわかった。これはマイクロバブルの体積がナノリットルであり、ナノバブルの体積フェムトリットルよりも百万倍以上も大きく、バブル中の気体が圧力により気体に溶解するのに、桁違いの時間(今回ナノでは数10ms,マイクロでは20分以上)がかかるからであると考えられる。すなわち、本原理はナノ流路における高圧条件やフェムトリットルレベルの極微小体積によりはじめて実現できる原理であり、マイクロ流路の実験から特徴も明確になった。 以上から、ナノ流路に適した世界最小バルブの創成にはじめて成功した。今後はナノレベルの気液相転移の速度論の解明という科学的側面に加え、技術的にはこのバルブとナノ流体プロセスを組み合わせることで、ウィルスやエキソソームなどのナノ物質の検出・分離へと展開し、医療や基礎生物学に貢献することが期待される。
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