研究課題/領域番号 |
21K18872
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
劉 小晰 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (10372509)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / マグノン / スピン波 |
研究実績の概要 |
テラヘルツ波は周波数0.3から10 THz(波長1mmから30μm)の周波数帯の電磁波である。この帯域はマイクロ波と赤外線の中間に位置しており、赤外線のように直線伝搬特性とマイクロ波のように様々な物質を透過できる特性を両立している。3次元イメージングが可能な可視化手段として、医療診断、LSIチップの故障解析、セキュリティ対策、医薬品、食品の品質管理等分野への応用が期待されている。 本研究では、グラフェンの高い電子の移動度・長い平均自由行程など優れた電子伝導特性を利用し、グラフェン薄膜・垂直半透明薄膜の二層化によって、テラヘルツ波発振素子の実現を目的としている。 透明度の高い垂直磁化膜及びそのグラフェン薄膜との二層化は本研究の実験重点である。本年度では、合成石英基板を用いて、透明度の高い正方晶系フェライト薄膜に着目し、実験を行ったところ、保磁力10kOe以上の正方晶系フェライト薄膜の形成が成功した。現在論文投稿中である。更に、瞬間冷却可能な新規熱処理方法を導入し、ラーマン分光により磁性薄膜上にグラフェン薄膜の形成を確認できた。X線回折法の結果から、これらのグラフェン薄膜は基板面に平行に成長したことを明らかにした。更に、微細領域のフラッシュ熱処理法の導入になり、昇温、降温速度の制御により、フラフェンとアモルファスカーボン間のトランスフォーメーション手法を確立した。これらの手法を用いて、抵抗変化型の高密度集積可能なメモリーへの応用も可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は概ね当初の計画通り推進している。本年度では、対向ターゲット式スパッタ法を用いて、透明度の高いフェライト薄膜を合成石英グラス基板上に形成した。薄膜表面算術平均粗さ(Ra)が0.4 nm以下であることを確認できた。膜厚1μmの正方晶系フェライト薄膜では透過率約72%(可視光域)の良好な数値を得られた。垂直磁化膜の膜厚は100 nmで、十分な透明度の確保ができた。更に、保磁力10kOe以上の薄膜の作製が成功した。 磁界中スパッタ法並びに斜め入射の方法で、magnonic crystalと呼ばれる周期波状のスピン配列並びに周期化した磁束密度分布を有するスピン構造を形成した。瞬間冷却可能な新規熱処理方法を導入し、磁性薄膜上にグラフェン薄膜の形成手法を確立した。 以上のことにより、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェン膜の電子の高い移動度を保つために、これまでの研究では、格子欠陥による電子散乱に注目し、高品質なグラフェン膜の剥離手法が開発されてきた。しかしながら、室温での実験では、グラフェン中の電子の移動度はグラフェン膜を支える基板物質に大きく影響されることが明らかにされている。熱酸化シリコン基板上のグラフェンでは、基板の光学フォノン(フォノンは結晶格子中での原子やイオンの振動を量子化した準粒子)による電子散乱の影響が大きく、理論上の移動度は40,000cm2V-1s-1まで制限される。本研究の目的を実現するために、垂直磁化膜をグラフェンの基板として使用する必要がある。磁化膜の結晶格子中の電子のスピンの構造を量子化した準粒子はマグノンという。このマグノンのグラフェンの電子移動度への影響はまだ不明である。令和5年度では、これまで作成した試料の電子移動度、スピン構造を系統的に調べる。令和4年度に開発したグラフェン薄膜形成時の電子の輸送特性をリアルタイムで計測する技術を用いて、マグノン、電子の軌道・スピン相互作用を調べる。これによって、効率の高いテラヘルツ発振素子の実現を目指すと共に、新しい学術原理の発見も視野に入れる。
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