研究課題/領域番号 |
21K18881
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大江 知之 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (30624283)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | フラーレン / SARS-CoV-2 / COVID-19 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染により引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬を目指し、世界中で様々な研究が行われている。その創薬標的は様々あるが、中でもメインプロテアーゼは最も期待されるターゲットであり、実際に、2022年2月メインプロテアーゼ阻害剤パキロビッドが日本でも承認されている。 一方、炭素同素体であるフラーレン(C60)は60個の炭素原子から構成される直径約1 nmのサッカーボール型をした炭素クラスターである。創薬化学の観点からは、空間的に広がりを持つ脂溶性スペースの確保や3次元的に固定された置換基の配置を可能にするという点で有機物質としては唯一無二の骨格であり、これを母核とした画期的な医薬品の創製を目指した研究が行われている。申請者らはこれまでに高脂溶性のC60に様々な置換基を導入することで100種類を超える水溶性誘導体を合成し、導入する置換基によって異なる生理活性を示すことを明らかにしてきた 。特に、複数のウイルスに対し抗ウイルス効果を示すことから、SARS-CoV-2の生活環に重要な酵素に対しても効果を示すことが期待された。 そこでまず、これまで申請者らが合成してきたC60誘導体がSARS-CoV-2メインプロテアーゼを阻害するかどうかを包括的に調べた。メインプロテアーゼおよび被験化合物を含む反応液に、酵素に認識、切断される12残基の基質ペプチドを加え、プロテアーゼ反応を行った。反応終了後、生成したペプチド断片をLC-MSで定量することでメインプロテアーゼに対する阻害活性を評価した。その結果、プロリン型誘導体やカチオン型誘導体など様々な誘導体がメインプロテアーゼを阻害することが明らかになり、中でもビスマロン酸型誘導体が強力な阻害能を有することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず最初に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼの活性を評価する系を構築した。当初はアッセイキットを使用する計画だったが、それらは蛍光を利用するものであるため、蛍光に影響を及ぼすことが知られているフラーレン誘導体の評価のためには適切ではない可能性があった。そこで、ペプチド断片をLC-MSで測定する系を自ら構築した。本系を使って当研究室でこれまで合成した誘導体をスクリーニング的に評価したところ、申請時に予想したとおり、様々なフラーレン誘導体がメインプロテアーゼを阻害することが明らかになり、その中でもビスマロン酸型誘導体が強力な阻害能を有することを見出した。系の構築などは申請時の計画にはなかったが、申請者らは迅速に対応し、実際の評価をスクリーニング的に回すところまで漕ぎ着けた。3年計画の1年目としては順調な滑り出しであり、今後複数見出しているリード化合物から構造展開を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ある程度活性のあるフラーレン誘導体を基盤に、ドッキングシミュレーションなどを駆使して、より強い活性を目指し、新規の誘導体をデザインし合成する。その際、申請者らが行っている不斉触媒を用いた置換基導入法あるいは光学分割などを用い立体異性による活性の影響も精査する。また、現在までに最も活性が強いビスマロン酸型誘導体については、その位置異性体も分離し評価することでより強い単一の化合物を見出す。 候補化合物について、次のステージとして、水溶性、膜透過性(人工膜、経細胞輸送)、代謝安定性(肝ミクロソームや肝細胞)、細胞毒性(肝細胞)などを評価する。さらに、マウスやラットに投与し血漿中薬物濃度をLC-MSで測定し非臨床薬物動態特性や安全性も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
メインプロテアーゼの活性評価についてアッセイキットを用いるのではなく、LC-MSを用いた評価系を使用する計画に変更した。そのため、2021年度はアッセイキット購入のために計上していた消耗品費を使用する必要がなくなった。一方で、様々なフラーレン誘導体が有望なリード化合物として見出されたので、次年度以降それぞれの誘導体からの構造展開の必要性が生じ、フラーレン誘導体合成に必要な原料、精製のために必要なカラム、活性評価に必要な酵素・ペプチド、LC-MS分析用試薬など当初の計画よりも多額の消耗品費を次年度に計上することにした。
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