研究課題/領域番号 |
21K18882
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
葛谷 明紀 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (00456154)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | DNAオリガミ / 人工抗体 |
研究実績の概要 |
本研究は、医療診断分野で広く用いられている抗体分子に関して、その製造コストの問題を解決するために、「抗体がもつ特長を全て備えつつ、さらにこれを凌駕した機能をもつ『人工抗体』を、タンパク質以外をつかって構築する」ことを目的とする。そのために、研究代表者が世界に先駆けて独自に開発した「ターゲット分子を挟むように結合することでX字型の開いた構造から=字型の閉じた構造(パラレル型)に変形するDNAオリガミ分子機械(Nature Commun. 2011, 2, 449)」を本体に使用することで、DNAでできた「人工抗体」を構築する。2021年度は、研究協力者より提供していただいた抗体断片Fabに関して、DNAオリガミ分子機械を構成するDNA鎖の末端に導入したジベンゾシクロオクチン(DBCO)基と、抗体断片に導入したアジド基との間での銅イオンフリークリック反応について検討を行った。ゲル電気泳動により、両者の間での結合形成を確かめた後、研究代表者がこれまでに開発している9つのナノメートルサイズのウェルを有する棒状のDNAオリガミ構造体 DNA Nanostick、および動いて機能するDNAオリガミ分子機械への導入を行った。これを原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した後、Fabに特異的なターゲットを系中に加えた結果、DNAオリガミ構造体上での抗原抗体反応をDNAオリガミ構造体の高さの変化として再現性よく確認することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNAオリガミ構造体を構成する化学合成DNAへの銅イオンフリークリック反応について、研究協力者から頂戴したアジド基導入抗体断片を用いて反応する諸条件をほぼ確立し、DNAオリガミ構造体への最終的な導入も、原子間力顕微鏡で再現よく確認することができた。ゲル電気泳動の結果では、化学合成DNAへの抗体断片の修飾効率にまだ改善の余地があるように見えるため、今後はこの点の改善に着手する。また、DNAオリガミ構造体の構造変化を可視化する手法についても、順調に検討が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
DNAオリガミ構造体を構成する化学合成DNAへの銅イオンフリークリック反応については、最終的に得られる目的物の純度をより高めるために、反応後になんらかの手法で複合体を精製することを検討する。具体的には、Protein Gを修飾したアフィニティカラムを用いたクロマトグラフィーを検討する。これがうまくいかない場合には、ターゲットタンパクそのものを修飾したアフィニティカラムの調製を試みる。DNAオリガミ構造体の構造変化を可視化するシステムについても、引き続きDNA上に結合した生物発光タンパク質と蛍光色素の間の共鳴エネルギー移動を活用する系のマルチカラー化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍に伴う半導体不足の影響で、導入を検討していた蛍光顕微鏡用に光ピンセット/光刺激システムの業者からの納期回答が非常に遅れ、調達手続きを開始する目処が立たなかったところ、年度末にウクライナ情勢が加わり、同設備の年度内の納入が絶望的になった。次年度は極力早い時期に学内の調達手続きとメーカー発注に着手し、上記光ピンセット/光刺激システムをセットアップすることで、DNAオリガミ分子機械の光学顕微鏡上でのマニピュレーションとその超解像観察に活用する。
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