研究実績の概要 |
近年、金属表面上で有機化合物を前駆体とした1次元・2次元炭素薄膜のボトムアップ合成や、最先端の走査型プローブ顕微鏡を用いた構造や電子状態の解析に関する研究が急速に進展している。バンドギャップを制御できるグラフェンナノリボンなどは代表的な成功例である。本研究では、その構造の多様化を目指して、表面合成化学ではもとより、有機合成化学でも難題であったケイ素環式化合物とそれをリンカーとしたナノ構造膜の創生を目指して研究を遂行した。 これまでの研究に於いて、トリメチルシリル基[-Si(CH3)3]を導入した小分子を用いてホモカップリング(ACS Nano 2018, 12, 8791)やヘテロカップリング(Angew.Chem.Int.Ed.2021, 60, 19598)を実現してきた。本研究ではより多彩な有機ケイ素ナノ材料を目指して、Si原子を表面上で直接導入する合成法を開発する。 具体的には、臭素などのハロゲン原子を導入した小分子とシリコン原子を表面上に蒸着し、金属基板上での加熱による反応を開発した。これにより、1,4-ジシラベンゼン(C4Si2)を表面合成することに成功し、そのユニットを介して、1次元のグラフェンナノリボンと2次元の共有結合性有機構造体(COF)の合成に成功した。その構造や電気特性を極低温超高真空で動作する高分解能走査型プローブ顕微鏡で計測した。また、その実験結果を基に理論計算を行った。各反応過程における化学状態の変化は、放射光施設での分光計測により同定した。 この一連の研究結果を基に論文投稿を行い、現在査読中である。
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