研究課題/領域番号 |
21K18893
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中塚 理 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20334998)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 低次元物質 / 珪酸塩鉱物 / 結晶材料 / 半導体 / エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本研究においては、フィロ珪酸塩鉱物への金属元素脱離/異種元素挿入による電子物性の制御、分子層薄片化から基板上への転写による2次元材料創製を目指す。既存の低次元ナノ物質の弱点を克服し、新世代エレクトロニクスに応用可能な新奇低次元材料を探求する。珪酸塩鉱物への異種元素挿入による電子物性制御、2次元層分離および支持基板への転写、半導体プロセス適用の可否など、新奇低次元物質創製のための基礎的学術知見の獲得を目指す。本年度得られた主な成果を記す。 (1)雲母基板とSi基板との直接接合やスコッチテープを用いた剥離法を用いて、フィロ珪酸塩の2次元層剥離と異種基板上への転写技術を検証した。転写前の被転写基板の表面処理として希弗酸洗浄処理を施した疎水性表面が転写に好適であることがわかった。一方、酸素プラズマ処理を施した親水性表面では剥離層の転写の確認は困難だった。 (2)転写前後におけるフィロ珪酸塩の結晶構造をX線回折法によって評価した結果、転写後も001面由来の回折パターンが観測された。XRD 2θ/ω測定からは、転写前のバルク状態では格子面間隔が異なる配向結晶だったものが、転写後は単一の面間隔に対応する回折ピークが観測された。また、ωロッキングカーブ測定からも転写後のフィロ珪酸塩の配向構造が均一化されることがわかった。 (3)転写後の試料におけるフィロ珪酸塩薄片積層構造に対して顕微ラマン分光測定を行ったところ、バルクで観察された固有の結合ピークは観測されなかった。薄片の膜厚が薄く、信号強度が検出限界以下である可能生が推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
安定した転写技術の構築に想定よりも時間を要している。表面修飾や前処理、転写方法などについて引き続き検討を進めたい。またこれに並行して、バルク状態の結晶物性制御に関するプロセス・評価の研究を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
(1)フィロ珪酸塩鉱物への化学・熱処理による金属脱離および挿入実験:高純度人工雲母基板を初期物質として、塩酸・硫酸などの化学薬品処理、あるいは水素・酸素・塩素雰囲気中の熱・プラズマ処理を施すことで、フィロ珪酸塩鉱物表面からの金属元素脱離の可否を調査する。また、金属脱離後の試料に対する溶液処理・ガス雰囲気中熱処理、元素成膜後熱・プラズマ処理などを施し、層状物質内への異種元素挿入を検証する。挿入する異種元素の候補材料として、既存のSi集積回路プロセスと親和性のあるアルミニウム、チタン、ハフニウム等の金属元素や、ボロン、燐、ガリウム、アンチモンなどのドーパント不純物元素、あるいは水素や硫黄などの軽元素類を想定している。X線光電子分光、X線回折、顕微ラマン散乱分光などを活用して、元素脱離/挿入後の結晶学的・化学的構造を詳細に分析し、処理条件が元素脱離・挿入に及ぼす影響を定量的に解明する。 (2)化学修飾された2次元状珪酸塩鉱物の化学・電子物性の解明:(1)で作製した試料に対して、フーリエ変換赤外分光、光電子分光価電子帯スペクトル測定、顕微型四探針測定、Hall効果測定などを用いて、エネルギーバンドギャップ、キャリア濃度、キャリア移動度などの電子物性を評価・分析する。異種元素導入が電子物性に及ぼす影響を定量的に明確化し、元素置換による珪酸塩鉱物の物性制御の可能性を探索する。 (3)結晶構造/エネルギーバンド構造の理論計算:第一原理計算ソフトウェア(VASP)を用いて、フィロ珪酸塩鉱物の結晶構造・電子物性をシミュレートする。諸元素を置換挿入した際の安定な結晶構造を予測し、電子物性を系統的に分析する。さらに分子層転写後や表面元素修飾による電子物性について、理論計算を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料作製にかかる消耗品費、分析費などの一部で次年度使用額が生じた。翌年度は、材料費、各種製造・分析装置の消耗品、各種分析費などに活用予定である。
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