研究課題/領域番号 |
21K18895
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金子 健太郎 京都大学, 工学研究科, 講師 (50643061)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 留置型ステント / 抗血栓 / ポリマー / CVD / コーティング |
研究実績の概要 |
本研究において、その目的の一つである、準安定相・非平衡系の材料の合成を通じて抗血栓作用をもつ新しい薄膜の探索を行った。これまで当研究室で実験を行った酸化鉄(マグネタイト、ヘマタイト)の密着性について酸素、窒素を使用する事で酸化・還元雰囲気にし、価数変化を行う事でヘマタイト(Fe2O3)、マグネタイト(Fe3O4)を製膜した。還元雰囲気で作製した、価数が小さいマグネタイトは密着性が乏しく、ピンセットを用いて表面をこすると剥離するものが多かったが、一部では剥離する事無くSUS表面にしっかりと密着しているものも確認された。先行研究では、マグネタイトが抗血栓作用を示す事が報告されているが、上記のように酸化鉄は価数の変化を起こしやすい材料であるため、結晶成長の観点からは価数変化を起こしにくい材料が望ましい。その観点もふまえて新規材料の探索を行った。現在の体内留置型ステントの多くがコバルト合金を母材としており、表面密着性の観点からも同じ材料である酸化コバルトが適していると考えた。また、コバルト(Co)は鉄(Fe)と周期表上で隣同士であり、その化学的性質は似ている。そのためマグネタイト同様の抗血栓作用を期待し、価数が小さい酸化コバルトであるCoOの合成を試みた。有機溶媒と窒素ガスを用いて還元雰囲気での製膜を行ったところ、薄膜はCoOの色である緑色を呈しておらず、黒光りするCo2O3が混ざったものが得られた。また薄膜はピンセットで容易に剥離できるものであり、さらなる還元雰囲気条件を用意するなど結晶成長条件の最適化が必要である事が分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新規材料として酸化コバルト(CoO)の合成を試みたが、Co2O3が混ざった薄膜が得られた。今年度はCoO単相膜の作製を目指して合成条件の最適化を行う。得られたCoO、さらにこれまで抗血栓作用が報告されているマグネタイトを用いてステントへの密着性実験や、最終的には鮮血等を用いる生体実験が必要になるが、現段階ではそこまで程遠く、新規材料開拓という項目については、まだまだ材料探索の段階である。一方で既存報告材料であるマグネタイトにおいては、密着性が高い薄膜が一部得られた事から、体内留置型ステントであるコバルト合金への製膜と密着性評価が今後の重要な実験となる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度であるため、最終目標の達成のために製膜実験を推進する。マグネタイトに関しては体内留置型ステントと同じ材料であるコバルト合金ペレット上への製膜を行い、密着性や結晶性、表面平坦性について評価を行う。またその表面密着性についてはリソグラフィ技術を用いて微細加工を行い、密着性の面方位異方性等の評価を行い、複雑なステント上での密着性評価に応用する。それらの実験を経て高い密着性が確認されたら、コバルト合金製のスプリングまたは実際に使用されている体内留置型ステントへの製膜を行い、複雑な立体形状への製膜を行う。立体物への製膜には低温での成長が望ましいため、400℃以下の低い温度域での製膜条件探索を行う。最終的には鮮血を用いた抗血栓作用評価が行える事を目指す。酸化コバルトについてはCoO単相膜の製膜条件の探求を行い、より強力な還元雰囲気等を成長の反応場に用意する事でその合成を目指す。CoOが得られると、マグネタイト同様に密着性、表面平坦性、結晶性について評価を行い、コバルト合金ペレット上での製膜を行う。高い密着性が確認されたら、コバルト合金製のスプリングまたは実際に使用されている体内留置型ステントへの製膜を行う。立体物への製膜には低温での成長が望ましいため、400℃以下の低い温度域での製膜条件探索を行う。最終的には鮮血を用いた抗血栓作用評価が行える事を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は酸化コバルトの合成に多くの時間がかかってしまい、当初実施する予定であった他の実験が出来なった。また、次年度使用額はコバルト合金ペレットやスプリング、体内留置型ステント等の製膜母材の購入、および前駆体の購入費、ミストCVD装置の石英部品、さらに抗血栓作用の評価として大学病院や共同研究等を通じて行う生体実験に使用する予定である。
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